2026年のHBM市況、カギを握るのは最新世代「HBM4」:福田昭のストレージ通信(301) 半導体メモリの行方をアナリストが解説(5)(1/2 ページ)
2025年8月に開催された「FMS(the Future of Memory and Storage)」の一般講演を紹介するシリーズ。今回はTrendForceのアナリストであるEllie Wang氏の講演を取り上げる。広帯域メモリ(HBM)の生産能力や容量、価格を予測する。
AIの進化と成長がHBM需要の拡大をけん引
2025年8月5日〜8月7日(米国時間)に、半導体メモリとストレージに関する世界最大のイベント「FMS(the Future of Memory and Storage)」が米国カリフォルニア州サンタクララで開催された。「FMS」はキーノート講演や一般講演、展示会などで構成される。リアル参加のみのイベントであり、オンライン参加はできない。
このほど、キーノート講演のビデオと一般講演のスライドがFMSの公式ウエブサイトで公開された。数多くある一般講演の中から、半導体メモリの市場動向と技術動向を著名なアナリストが解説した概要を、本コラムの第291回からシリーズでご紹介している。なお本記事は講演スライドの内容をご報告しているので、講演の詳細とは一致しないことがある。あらかじめご了承されたい。
本シリーズの前々回と前回は、市場調査会社Yole GroupのシニアアナリストをつとめるJosephine Lau氏の講演概要をご紹介した。講演タイトルは「Memory Market Overview - A 2025 Update(メモリ市場の概況:2025年の更新版)」である。前々回は半導体メモリ市場の2030年を予測するとともに、HBM市場の将来を分析した。前回は中国の半導体メモリ市場と中国半導体メーカーに関する分析結果をご報告した。
今回は、市場調査会社TrendForceのアナリストをつとめるEllie Wang氏の講演概要をご説明する。なお内容は、本コラムの第292回で述べた同社シニアバイスプレジデントのArvil Wu氏による講演概要と連動しているので、ご興味のある向きは参照されたい。
Ellie Wang氏の講演タイトルは「How AI Growth Will Drive HBM Demand Beyond 2025:Shaping Product Evolution and Dynamics(2025年以降のHBM需要をAIの成長はどのようにけん引するのか:製品の進化と動向)」である。「供給(サプライ)動向」「需要(デマンド)動向」「平均価格(ASP)と売り上げ(リベニュー)の動向」の3つに分けてHBM市場をWang氏は説明した。
SK hynixが2026年にかけてHBM生産能力を大幅に拡大
はじめは供給動向である。HBMを構成するシリコンダイは、シリコン貫通電極(TSV)という特徴を備える。DDR系などのHBM以外のDRAMシリコンダイには、TSVが存在しない。そこでTSVプロセスを有するウエハーの処理能力(月産枚数)を、TrendForceはHBMの生産能力と見なしている。
2025年の年末におけるDRAM大手3社のDRAMウエハー処理能力(月産枚数)は、Samsung Electronicsが65万5000枚、SK hynixが54万5000枚、Micron Technologyが34万枚と予測した。その中でTSVプロセス(HBM)のウエハー処理能力(月産枚数)は、Samsungが15万枚でDRAMウエハー全体に占める比率は23%、SKが15万枚で比率は28%、Micronが5万5000枚で比率は16%と推定した。
DRAM主要サプライヤー各社のDRAMウエハー処理能力(月産枚数、単位1000枚)とTSVプロセスのウエハー処理能力(月産枚数、単位1000枚)。年次はいずれも年末の時点[クリックで拡大] 出所:2025 Proceedings of FMS、TrendForce
2026年の年末におけるDRAM大手3社のDRAMウエハー処理能力(月産枚数)は、Samsungが前年比1万5000枚増の67万枚、SKが同5万5000枚増の60万枚、Micronが同2万枚増の36万枚と予測する。SKの生産能力増強が目立つ。
2026年の年末におけるTSVプロセス(HBM)のウエハー処理能力(月産枚数)は、Samsungが前年と同じ15万枚、SKが前年比5万枚増の20万枚、Micronが同4万5000枚増の10万枚とみる。SKとMicronが積極的に能力を増強するのに対し、Samsungの消極さが際立つ。
もう少し細かくみていくと、SKはDRAM生産能力増加の9割強がHBMの生産能力増加となる。Micronに至ってはDRAM全体の生産能力増加(2万枚増)よりも、HBMの生産能力増加(4万5000枚増)が大きいという、「異様な」状況だ。生産ラインの割り振りそのものをHBM最重視に転換することがうかがえる。
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