AIは「バブル」ではない――桁違いの計算量が半導体に地殻変動を起こす:湯之上隆のナノフォーカス(87)(5/5 ページ)
昨今のAI関連投資の拡大傾向を「AI市場はバブルだろう」とみる向きは少なくない。だが筆者はそうは思わない。その理由を解説したい。
真のボトルネックはCoWoS――ここが解けたら投資は「落ち着く」のではなく「暴走」する
しかし、AI半導体の成長には多数のボトルネックがある。そのうち、最も深刻なものがCoWoSなど2.5DパッケージのCapacityだ。
図14は2.5DパッケージのCapacity推移を示している。AI半導体は、先端ノードで作った“チップ単体”では成立しない。HBMを組み合わせ、システムとしてまとめ上げる必要がある。そのために必要不可欠なのがCoWoSであり、このCapacityが足りない限り、AI半導体の供給不足は続く。
図14 2.5DパッケージのCapacityの推移[クリックで拡大] 出所:Joanne Chiao( TrendForce )、「2026年ファウンドリー市場の展望ー先端プロセスの優位性と成熟プロセスの飽和」(2025年12月16日)のセミナーのスライド
つまり今のAI市場の制約は、最後は「CoWoSが足りない」という一点に収束する。
ここで直感に反する未来がある。CoWoSの制約が解消すれば、投資は落ち着くのか?――答えは逆だ。もっと増える。
なぜなら今は、クラウドメーカーが欲しくても買えないAI半導体が抑え込まれているからだ。供給制約が外れた瞬間に、抑制されていた投資が噴出する。クラウドメーカーは待っていた分をここぞとばかり買占め、AIデータセンターを建設し、競争はさらに激しくなる。投資が“沈静化”するどころか、“次の段階へ突入”する可能性が高いというわけだ。
これはバブルではない、半導体産業の「地殻変動」だ
本稿の結論はシンプルである。以下にまとめてみよう。
1)クラウドメーカーの投資が増大し続けている背後には、生成AIの桁違いの計算量がある
2)現在起きている現象は、過去のWindows95バブル、ITバブル、メモリバブルのような“崩壊前提”のバブルとは異なり、大きくて強力な「AIトレンド」である
3)このAIトレンドにより、Logicとメモリ市場は拡大し、メモリ価格はAIシフトが原因で高止まりする
4)そしてTSMCの先端はAIに占領され、N3の主役はAppleからNVIDIA&Broadcomへ移る
5)AIの最後のボトルネックはCoWoSであり、ここが外れればクラウドメーカーの投資はさらに増大し暴走する
生成AIが作り出したのは、バブルではなく、トレンドである。それによって、半導体産業には“地殻変動”が起きている。そして地殻変動は、元に戻らない。
お知らせ
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筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。
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