高性能高耐久性燃料電池を可能にする電解質膜を開発、山梨大ら:性能と耐久性を大幅向上
山梨大学、早稲田大学および信州大学の研究グループは、固体高分子形燃料電池(PEFC)の性能と耐久性を大きく向上させる「プロトン導電性電解質膜」を開発した。この高分子複合膜にはフッ素が含まれておらず、PFAS規制の影響も受けないという。
フッ素を含まない高分子複合膜で、PFAS規制の影響も受けない
山梨大学、早稲田大学および信州大学の研究グループは2026年2月、固体高分子形燃料電池(PEFC)の性能と耐久性を大きく向上させる「プロトン導電性電解質膜」を開発したと発表した。この高分子複合膜にはフッ素が含まれておらず、PFAS規制の影響も受けないという。
電解質膜にプロトン導電性高分子を用いるPEFCは、電気自動車や家庭用の電源として商品化されている。ただ、フッ素系高分子電解質と多孔材基材を組み合わせた従来の複合材は、高価でガスバリア性が不十分なことや、フッ素原子を多く含むなど課題もあった。フッ素原子を含まない高分子電解質膜も開発はされてはいるが、フッ素系高分子電解質に比べるとプロトン導電率や化学的安定性が劣っていた。
研究グループは今回、プロトン導電性が現れるような構造、化学的安定性が得られる構造、機械的安定性を発現するための脂肪族基に着目。具体的には、スルホン酸基を持つフェニレン基、ベンゼン環が5つ連結したキンケフェニレン基および、脂肪族基の3成分を組み合わせた高分子電解質を設計した。これに、補強材となる多孔性ポリエチレン基材を組み合わせて複合電解質膜を作製した。
実験では、各成分の構成比や脂肪族基の長さを変えながら高分子電解質を合成し、電解質物性に及ぼす効果を調べた。この結果、高分子電解質の物性は、組成に加えて脂肪族基の長さによっても大きく変わることが判明した。
例えば、炭素数が12のドデシル基が疎水部の中で67mol%含まれる時に、高分子量体(重量平均分子量が14万1500)として得られ、エタノールなどの低級アルコールにも溶けやすい性質であった。この高分子電解質を膜厚7μm、空隙率44%のポリエチレン基材と組み合わせると、高分子電解質が均一に含侵した複合膜が得られた。
この複合電解質膜は、80〜120℃の温度範囲で0.3〜0.7S/cmという高いプロトン導電率となった。また、80℃で60%RH条件下において、破断伸びは300%を超えるなど、伸縮性にも優れている。
開発した複合電解質膜の両面に電極触媒層を塗布して、燃料電池の特性を測定した。この結果、水素透過率はフッ素系電解質複合膜に比べ4分の1程度であり、ガスバリア性に優れていることが分かった。しかも120℃で30%相対湿度の条件下で、発電性能は150mW/cm2より大きく、乾燥と湿潤を繰り返す加速劣化試験では10万サイクルを超えた。
今回の実験では、電極面積が4.41cm2という小さなセルを用いた。実用化に向けて今後は、より大きなセルを用いての性能確認や、複数セルを積層した状態での特性検証などを行う予定。また、安価な錯体を用いた複合膜の合成にも取り組む計画である。
今回の研究成果は、山梨大学クリーンエネルギー研究センター/水素・燃料電池ナノ材料研究センターおよび、早稲田大学理工学術院の宮武健治教授、信州大学社会実装研究クラスター繊維科学研究所の金翼水卓越教授、山梨大学クリーンエネルギー研究センターのLiu Fanghua研究助教らによるものである。
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