「環境問題」とは結局何なのか(後編)〜板挟みの実情〜:世界を「数字」で回してみよう(9)(4/4 ページ)
当事者意識がなかなか湧きにくい環境問題ですが、人類がこれまで何もできなかったわけではありません。実際、オゾンホールの問題は国際協調によってそれなりの効果を出しています。ただし、総じて環境問題というのは、「原因がはっきりしなくても対策しなければならない」「なのに数十年たっても効果はないかもしれない」という、極めて“板挟み”的な要素を含んでいるのです。
環境問題は極めて面倒くさい
オゾンホール問題については、モントリオール議定書の採択から既に27年を経過して、ようやく「効果が出てきたかもしれない」という状況になりましたが、地球温暖化問題は、効果が見えるようになるまで、もっと長い年月が必要であるといわれており、最悪のケースでは、100年後に「効果は全くなかった」という判断が下される可能性だってあります。
そこで、このような科学的に不確かな問題に対して、今でいう「予防原則」の考え方が採用されました。「予防原則」とは、「科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方」をいいます。
実際に、この考え方を導入しなければ、オゾンホールの「回復の兆し」などという成果には、到達できなかったことでしょう。
まとめますと、環境問題の中でも、特に「地球温暖化問題」とは、
■被害者としての当事者意識が生まれにくく(前回ご参照)
■科学的にはっきりしないことが山ほどある
にも、かかわらず、
■対策を取らなければ、後からでは「取り返しのつかないこと」になるという可能性があり、
■対策を取っても、後から「全く意味がなかった」と判断される可能性もある
という、極めて面倒くさい問題なのです。
さて、今回は、環境問題のテーマに取り組む前に、私の疑問点や考え方を整理し、過去の環境問題への取り組みと、現在の地球温暖化問題の「問題」について前後半に分けて論じてみました。
次回からは、環境問題について、実際に数字を使って回してみたいと思っております。
まずはCO2という物質について、例えば、18リットル缶の灯油がどうして45kgのCO2になるのかなど、CO2という物質に着目して、数字で回してみようと考えています。
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Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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