線幅0.8μmを実現する新原理の印刷技術を開発:折り曲げても割れにくいタッチパネルが可能に(2/2 ページ)
産業技術総合研究所(産総研)の山田寿一主任研究員らは、東京大学や山形大学、田中貴金属工業と共同で、線幅0.8μmの微細な電子回路を簡便に印刷できる技術を開発した。フレキシブルなタッチパネルセンサーなどへの応用を進めている。
配線パターン膜厚30〜100nm範囲で制御可能
研究チームは、作製した銀配線を顕微鏡で観察し、最小線幅0.8μmの銀配線パターンが形成されていることを確認した。従来のスクリーン印刷や通常のインクジェット印刷法に比べて数十倍の精細度になるという。銀ナノインクの濃度を変更すれば、配線パターンの膜厚を30〜100nmの範囲で制御できることも確認した。
また、通常の印刷法だと「コーヒーリング効果」により塗布したインクの周縁部で厚みが増し、設計データとは配線の抵抗値が大きく異なる場合がある。スーパーナップ法を用いると、銀配線の厚みは線幅に関係なく一定となり、コーヒーリング効果の影響は確認されなかった。電子顕微鏡で塗布したインクの周縁部を観察したところ、反応性表面上では銀ナノ粒子同士の溶融により球状の形状が消失し、銀薄層を形成していることが分かった。
研究に用いた銀ナノインクには、アルキルアミンの保護層で被覆された銀ナノ粒子が、重量比40〜60%という高い濃度で含まれている。山形大学が行った研究により、この銀ナノインクを乾燥させることで、結合力の弱いアルキルアミンは徐々に脱離し、常温でも銀ナノ粒子同士の凝集と融着が進行することが解明されている。これらの特性を活用したことで、スーパーナップ法を開発することができたという。
フレキシブルなタッチパネルセンサーを17年にサンプル出荷へ
研究チームは、新たに開発した印刷技術を用いて、可視光の回折限界に近い線幅約2μmの銀配線をプラスチック基板上に形成し、フレキシブルなタッチパネルセンサーを試作した。このタッチパネルセンサーは、高い曲げ耐性を示すとともに、ITO(酸化インジウムスズ)や銀ナノワイヤー、グラフェンなどを用いた他の透明導電膜と比べ、光透過率やシート抵抗といった特性に優れていることも確認した。
田中貴金属は、今回の技術を用いたフレキシブルなタッチパネルセンサーの製品化に取り組んでいる。2017年1月にはサンプル出荷を開始する予定である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- NECと産総研、AI開発加速させる連携研究室設立
NECと産業技術総合研究所は、2016年6月1日から人工知能(AI)を活用した「未知の状況下での意思決定」を可能にする技術の開発を行う連携研究室を設立すると発表した。 - 可視光全域の波長をカバー、世界初の標準LED
産業技術総合研究所の中澤由莉研究員らは、日亜化学工業と共同で、可視光全域で十分な光強度を持つ標準LEDを開発した。 - 電気を通すラップの開発に成功
産業技術総合研究所(産総研)は2016年1月、電気を通す透明ラップフィルムを開発したと発表した。生鮮食品用の包装フィルムの他、曲面状のものにセンサーを実装できるという。 - 人に“触れない”近接センサーが見守りを支える
産業技術総合研究所は、島根県産業技術センターと共同で、非接触式の静電容量型フィルム上センサーを開発したと発表した。床やベッドの裏側などの人の目に触れないところに設置し、使用者に精神的/肉体的な負担をかけることなく、動きや呼吸を検出できるという。