携帯電話用半導体を巡って繰り広げられた「ババ抜き」:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(6)(3/3 ページ)
2000年代後半から2010年代前半にかけて、携帯電話機用半導体事業の売買が企業間で繰り返された。今、思えば本格的なスマートフォン、チップセット時代の到来を目前に控え、携帯電話機用半導体事業という「ジョーカー」を巡る「ババ抜き」だったのかもしれない――。
繰り広げられた売買の背景にあったもの
図2には描き切れていないが、2000年代半ば以降には半導体メーカーのM&Aが続々と起こっている。QualcommによるAirGo Networks(2006年)、Atheros Communications(2011年)の買収、MediaTekによるRalink Technologyの買収(2011年)など通信用半導体の売買が活発に行われた。この後、すぐに到来するスマートフォンの時代に向けた準備は、実際には2000年代後半から2010年代前半かけて進んでいたかのようだ。
Infineonはスマートフォン時代開花の前に通信用半導体事業の売却に成功している。さらに先に記したようにTI、ADIらは撤退や売却を果たしている。その後の中国やMediaTek、Qualcommの猛進を予見していたかのように……。
前回も紹介したようにスマートフォンのプラットフォーム競争は熾烈(しれつ)であった。毎年チップセットを強化し、かつ性能向上と電力削減の相反する2つを進めねばならない。まさに弾の打ち合い、銃撃戦になることが予見されていた。
半導体には2つの製品カテゴリーがある。1〜3年ほどで価値を失ってしまうものと、10年、20年と使われるものだ。前者はまさにスマートフォンのプラットフォームそのものである。数年前のチップセットは、今では陳腐化し、最新のOSを走らせることさえできない。こうしたスピードレース(チキンレース)から早々と撤退、売却を行ったということになる。
通信用半導体事業を最後につかんだIntelは……
Infineonから通信用半導体事業を買収したIntelは、2016年、モバイル向け半導体事業を撤退する方向と報じられている(ただし第5世代移動通信(5G)には継続して取り組むことも明確になっている)。なお次回は、「Atomとは何だったのか」をテーマにして、Intelについて扱う予定である。
図3は、EE Times Japanの連載「製品分解で探るアジアの新トレンド」の第1回「中国中堅タブレットにみたIntelの執念」で取り上げたIntelのチップセット「SoFIA」のチップを開封して確認したダイ上のロゴマークである。IntelのロゴではなくIntelに買収されたInfineon時代のままの型名、ロゴ(IMCの“I“はIntelともInfineonとも取れる)が搭載されている。またIntelのファブを使うのではなく、Infineonが使っていたファブがそのまま使われているようだ。
これでは、例えチップセットが売れても、Intelのファブには何の恩恵もない――。半導体業界の当代王者であるIntelのモバイル撤退の真意は、このロゴからも読み取れるのかもしれない。詳細は次回としたい。
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筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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