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「SEMICON West 2016」、半導体露光技術の進化を振り返る(中編)福田昭のデバイス通信(82)(2/2 ページ)

今回は、等倍一括露光から縮小分割露光への転換の歴史を紹介する。縮小分割露光は、光露光技術の画期的なブレークスルーであった。そしてこの技術は、ニコンが半導体露光装置メーカーの大手へと成長するきっかけにもなった。

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等倍一括露光から縮小分割露光へ

 前回で述べたように、露光装置の解像度(R)は、「レイリーの式」と呼ぶ基本式で主に決まる。

R=k1×λ/N.A.

 ここでk1は比例定数(ケイワンファクター)、λは波長、N.A.は光学系の開口数である。当時の光露光技術である等倍一括投影露光(プロジェクションアライナー)は比例定数(ケイワンファクター)と開口数が低く、このことが光露光の解像限界を決めるとされていた。これに対してもう1つの要素である波長を短くすることによって解像度を上げようとしたのが、X線露光と電子ビーム露光である。

 しかし、光露光技術のブレークスルーとして登場した縮小分割投影露光(ステッパー)技術は、上記の波長を基本とする解像度への考え方が、当時の実情とはかなり違っていたことを示してみせた。

 縮小分割投影露光(ステッパー)とは、マスクの回路パターンを光学系によって5分の1〜10分の1に縮小し、ウエハーの一部分だけを露光する方式である。一部分だけの露光を繰り返す(ステップ・アンド・リピート)ことから、ステッパーと呼ばれる。

 ステッパーの露光方式を見るとすぐ分かるのは、これまでの一括露光方式に比べるとスループット(ウエハー1枚当たりを処理する速度)が低下することである。この弱点を補って余りある長所が存在することから、ステッパーは商用化され、普及していった。

 ステッパーにおける最大の特長は、マスクのパターン寸法がウエハーの実回路寸法よりも太いことにある。例えば2μm幅の回路パターンに対し、縮小率が5分の1(実際にこの比率が主流となった)とすると、マスクのパターン幅は10μmになる。このことによってマスクの製作が非常に容易になるとともに、将来の微細化に対しても非常に大きな技術的余裕を持つことになった。

 これに次ぐ特長は、ウエハーの一部分だけを露光することだ。一括露光ではウエハー全面を露光するため、ウエハーの反りによってピントが合わない箇所が発生して解像度が低下する。分割露光ではウエハーの一部分だけを露光するので、ウエハーの反りを気にせずに、露光箇所ごとにピントを合わせられる。このことは、光学系の開口数と焦点深度がトレードオフにあることを考慮すると、非常に画期的なことである。一括露光では、解像度を上げるために開口数を高めると、通常は焦点深度が低下してウエハー全体の平たん度が問題になる。分割露光の導入によってウエハーの平たん度は問題とならなくなり、光学系の開口数を上げやすくなった。

 3番目の特長は、反射光学系ではなく、屈折光学系を採用したことである。反射鏡(凹面鏡と凸面鏡)を使っていたプロジェクションアライナーでは、開口数を上げることは極めて難しかった。ガラスのレンズを使う屈折光学系は、開口数を上げることが可能であることは分かっていたものの、レンズ材料(硝材)の開発が進まず、半導体露光には採用しづらかった。それがここにきてレンズの開発が進み、半導体露光装置に採用されるレベルに達した。レンズの改良は今後も見込めることから、この点からも、将来にわたって解像度を向上できる見通しが立った。

 以上の事実から分かるのは、「光源の波長を短くすることなし」に、ステッパーでは解像度を向上させたことである。言い換えると当時、半導体露光技術で解像度を制限していたのは、光源の波長ではなかったといえる。


アライナーとステッパーの比較(1978年〜1982年ころ)

 本格的なステッパーが発売されたのは1981年12月。ニコンが開発した5対1の縮小率を備えるステッパー「NSR-1505G」である。それまでニコンは半導体露光装置メーカーとしての実績があまりなく、キヤノンに水をあけられていた。ステッパーの開発で先行したことで、ニコンは半導体露光装置の大手メーカーとなっていく。ちなみにニコンの半導体関連機器の売上高は1980年度に24億円だった。これが1983年度には8倍を超える205億円に達している。

 なお、キヤノンが初めてステッパー「FPA-1500FA」を発売するのは1984年である。キヤノンがステッパーを市場に投入したことにより、ステッパー市場はほぼ、ニコンとキヤノンによる独占状態となる。1980年代後半は日本製DRAMの黄金時代でもある。黄金時代を支えたのが、ニコンとキヤノンのステッパーであった。

後編に続く

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