中国スマホメーカー、模倣からの脱却:製品分解で探るアジアの新トレンド(8)(2/2 ページ)
中国メーカーのスマートフォンは当初、AppleやSamsung Electronics製スマートフォンの発展の後をたどるように進化してきた。だが、進んで最先端プロセッサを搭載するようになると、スマートフォンの進化に伴う課題も、自ら率先して解決法を見いだすことが求められるようになる。
プロセッサの発熱問題
現在、スマートフォンの設計における最大の課題は、プロセッサの発熱問題である。CPUは2GHz以上で動作する上に、4コア、8コアが当たり前である。かつてPCでも発熱は最大の課題の1つであった。PC用プロセッサの周波数が高くなり、コア数が増えることでプロセッサの発熱は大きくなる。そのためPCでは空冷装置、水冷装置、ヒートシンクなどの対策が行われた。
PCはスマートフォンに比べてサイズが大きい(体積が大きい)ため、空冷装置やヒートシンクは大いに普及した。
しかし、スマートフォンには空冷装置を入れるスペースはない。多くのスマートフォンメーカーは発熱という課題に対してそれぞれの対策を行っている。
図2は、2016年を代表する3機種スマートフォンの内部の様子である。スマートフォンは、外観こそ似通っているが、内部の構造はいまだに、メーカーの機種ごとにバラバラで、まったく別物になっている。
Samsungはプロセッサの発熱に対して、プロセッサの下に「ヒートパイプ」という放熱装置を配置することで、スマートフォンの上下方向に熱を逃がしている。Appleはアプリケーションプロセッサとベースバンドプロセッサを統合せずに、これら2つを離して実装している。加えて、OSの最適化などを行いプロセッサの動作周波数を下げることで発熱を抑える設計にしている。例えば、他社のスマートフォンの動作周波数が2.5GHzのところ、「iPhone 6s」のプロセッサコア「A9」の動作周波数は1.85GHzと、3割ほど下回っている。さらに、他社が8コアでも、A9は2コア構成になっている。
図3は、XiaomiのMi 5のプロセッサ側基板とスマートフォン内部のフレームの様子である。Mi 5ではプロセッサ基板とフレームが凸凹でぴったりハマるように設計されており、フレーム(=ボディー)全体で放熱を行う構造になっている。詳細写真を掲載していないが、実際には、チップ表面に保冷材や保冷ネットを装着し、その上でフレームに設置させている。
これまで中国メーカーは、これらの課題についても、AppleやSamsung、日本メーカーらの対策をトレースすることで解決してきた。だが自身が先頭に立つということは、発熱問題の他、ノイズの問題など、スマートフォンの仕様だけでは見えてこない問題も、自分で解決する必要に迫られるということなのである。今やこれらの課題も、中国メーカーが率先して取り組む時代が来ているのだ。
⇒「製品分解で探るアジアの新トレンド」連載バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 16年4〜6月のスマホシェア、Apple落ち込み続く
米調査会社のIDCは、2016年4〜6月(第2四半期)の世界スマートフォン市場におけるメーカー別出荷シェアを発表した。調査結果によると、上位3社の順位はいつもと変わらないが、Appleが同年1〜3月(第1四半期)に引き続き、第2四半期も前年四半期比15.0%減と大きく減少している。 - 携帯電話用半導体を巡って繰り広げられた「ババ抜き」
2000年代後半から2010年代前半にかけて、携帯電話機用半導体事業の売買が企業間で繰り返された。今、思えば本格的なスマートフォン、チップセット時代の到来を目前に控え、携帯電話機用半導体事業という「ジョーカー」を巡る「ババ抜き」だったのかもしれない――。 - インターネット時代の幕開け
今回は、シリコンバレーの発展に欠かせない要素であるPCとインターネットの歴史について、触れてみたい。これら2つは、シリコンバレーだけでなく世界を大きく変えることになった。 - ソニー電池事業買収、4つの勝算
2016年7月、村田製作所はソニーの業務用電池事業を買収すると発表した。コンデンサーを中心とした電子部品メーカーである村田製作所が、苦戦続きのリチウムイオン電池事業を立て直すことができるか懐疑的な見方も多い。なぜ、村田製作所は電池事業を買収するのか、そして、勝算はあるのか――。同社取締役の中島規巨氏に聞く。 - 「A9」に秘められたAppleの狙い(前編)
「iPhone」向けのプロセッサはかつて、「Appleは、他社の市販のプロセッサに切り替えるべき」だといわれたこともあった。だが今、「Aシリーズ」の性能は一定の評価を得ている。 - 日本の隠れた半導体優良企業「メガチップス」(前編)
世界のファブレスチップメーカーのトップ25に入る、唯一の日本メーカーがメガチップスだ。同社は決断力と実行力に優れ、積極的にM&Aも行っている。知る人ぞ知る、隠れた優良企業であるといえるだろう。