UKC、“3000億の壁”突破にはM&Aが不可欠:半導体商社トップインタビュー UKC HD(2/2 ページ)
2016年になっても収まる気配がない、半導体業界に吹き荒れるM&Aの嵐。この業界再編は、半導体商社にとっても変革期を迎えたことを意味するだろう。そこで、EE Times Japanでは、各半導体商社のトップに今後の戦略を問うインタビュー企画を進めている。今回は、2016年4月に加賀電子との経営統合中止を発表したUKCホールディングス(UKC HD)社長の福寿幸男氏に聞いた。
EMS事業ではベトナムで新しく工場を稼働
EETJ 利益率の高いビジネスの強化を進めている中で、EMS(電子機器受託製造サービス)もベトナムに自社工場を新設されるなど、強化されています。一般にEMS事業は利益率が低いイメージがありますが、なぜ、EMSに取り組むのですか。
福寿氏 おっしゃる通り、少量多品種生産で単純な加工だけであれば、利益率が低い事業になる。実際、当社も当初は苦労した。
人脈を頼りに自社工場を持たないファブレススタイルでEMS事業をスタートしたわけだが、すぐに飽和してしまった。日本ケミコンと合弁のEMS工場を韓国に設立して進めてみたが、それもうまくいかない状況が続いた。
そしてEMSからの撤退も検討し始めていた頃に大手携帯端末メーカーから、“自社工場を持つ”という条件付きで、「携帯端末用の部品実装をやらないか」と声が掛かった。それならば、本格的に自社工場を立ち上げて、今までの累損を解消しようと中国・東莞に自社工場を設けて自社ファブEMS事業を立ち上げた。
東莞工場はフル稼働が続き、EMSとしての形が整ってきた。ビジネス規模も拡大しており、300億円に近い売り上げが出ている。そして、EMS事業の営業利益率は3%を超えており、比較的利益率の高い事業となっている。
EETJ ベトナム・ハノイ工場の稼働状況はいかがですか。
福寿氏 2016年4月から稼働を開始した。カメラモジュールの基板実装を担っており、有機ELモジュールの生産も今後は狙っていきたい。現在5ラインが稼働しているが、建屋としては合計10〜12ラインを導入できるスペースがある。さらに、現工場と同じくらいの建屋が建設できる広さの土地も隣接地に購入済みで拡張の余地は大きい。そのため、利益を確保しやすい一定規模以上の案件であれば、特定顧客以外のビジネスも獲得したいと思っている。
産業機器と車載機器向けを強化へ
EETJ 足元の業績は、どのように評価されていますか。
福寿氏 2016年3月期の売上高は前年同期比2.9%増となる2886億8400万円だった。純利益は、円高傾向に伴う為替差損の拡大による減益に加えて、一部投資有価証券の減損損失を計上し、前年同期比20.7%減となる32億円となった。
2017年3月期第1四半期も、円高に加えて熊本地震によるソニーのイメージセンサー製造に影響が出たことから、デジタルカメラ向けビジネスを中心に影響が出た。その結果、売上高は前年同期比6.8%減となる651億円、純利益は85.7%減となる2億円となった。ただ、どの半導体商社も円高の影響で厳しい環境で苦しむ中、健闘したと思っている。
EETJ これから注力する分野はどこになりますか。
福寿氏 ボリュームはまだ少ないが、産業機器向けと車載機器向けビジネスを強化したいと考えている。車載機器では、ADAS(先進運転支援システム)向けにイメージセンサー、センターパネルに液晶パネルの展開などを進めている。産業機器では、光通信モジュール、レーザーといった光デバイスの商権を拡充している。光デバイスのビジネスは順調で、年間売上高100億円も視野に入ってきた。
主力の民生機器向けも注力しないわけではなく、イメージセンサーはスマートフォンを中心に普及の余地はあると考えている。デジタルカメラも市場が縮小しているとはいえ、一眼レフカメラで一定の需要はある。これらは、当社として抑えなければならない。
EETJ 最後に、今後の抱負について聞かせてください。
福寿氏 足元での営業利益率3%は市場環境的に厳しいが、中期的には実現できると思っている。今までの主力ビジネスが落ち込み、切り替わりのタイミングになっている。種まきの段階は終わったので、どのようにこれから育てていくかが大事である。また、シナジーが見込める企業には、DMPのように出資を検討していきたい。
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