中身が大変身した「iPhone 7」とその背景:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(9)(3/3 ページ)
2016年9月に発売されたAppleの新型スマートフォン「iPhone 7」。一部では、あまり目新しい新機能が搭載されておらず「新鮮味に欠ける」との評価を受けているが、分解して中身をみると、これまでのiPhoneから“大変身”を果たしているのだ。今回は、これまでのiPhoneとiPhone 7の中身を比較しつつ、どうして“大変身”が成されたのかを考察していこう。
これまでの熱対策
ベースバンドプロセッサもアプリケーションプロセッサと同じく、著しい進化を果たした。当初数Mビット/秒(bps)の通信速度のHSDPAからスタートした通信速度もiPhone 7では450Mbps(LTE Cat.9)まで速度を上げている。こちらも100倍の速度アップを果たすために、回路規模は20倍程度に跳ね上がっている。処理速度も、集積度も著しく高まっており、熱を多く発するデバイスになっている。
iPhoneでは歴代、こうした発熱デバイスを並べて配置せず、Aシリーズプロセッサをメインとする信号処理(+電源IC、メモリストレージ)の“島”と、ベースバンドプロセッサをメインとする通信処理(+トランシーバー+電源IC)の“島”という“2つの島”に分け、発熱箇所を分散し続けてきた。
しかしiPhone 7では図5のように、アプリケーションプロセッサとベースバンドプロセッサを並べて配置した。
当然ながらアプリケーションとベースバンドを1チップ化しているQualcommやMediaTekでは発熱問題を電源遮断技術や電圧変動技術で対策を行っている。しかしiPhoneでは、2つのプロセッサは、統合されておらず、離れた配置を続けることで島を分け、対策とされてきたと思われる。
新しい熱対策
iPhone7では、2つのプロセッサは1つの島に統合された。基板の反対側には電源IC(電圧の制御など)が1カ所に集まっている。すなわち今までは「アプリケーション島」+「通信島」であったものが、iPhone7では「デジタル系処理の島」と「RF系の島」という構造になっている。こうした島の仕切り方の変化によって、基板の端子位置を反転させることを実現できているのが「iPhone 7」ということになる。
ちなみに発熱の大きいプロセッサ部では、発熱対策も三重に行われている。TSMCが開発したInFO(Integrated Fan Out)という、放熱性に優れるウエハーレベルパッケージ技術を用い、パッケージの厚さを25%ほど削減し、その結果として鉛シールや放熱素材をチップの上に置くことで発熱対策が施されている。大きな内部配置の大転換は、iPhoneのような大型商品で起こっている。今までの延長での改良ではない「iPhone 7」。次回は同じく大転換を起こしたApple Watch2を取り上げたい。
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筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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