Xiaomiのドラレコ、そのプロセッサの正体は?:製品分解で探るアジアの新トレンド(10)(2/2 ページ)
中国のXiaomi(シャオミ)は、スマートフォン以外の分野にも触手を伸ばし始めている。その一例がドライブレコーダー(ドラレコ)だ。同製品を分解したところ、使われているプロセッサは米Ambarella製で、パッケージだけカスタマイズしているように見えたのだったが……。
Xiaomi Yi Car Cameraのプロセッサ
図3は、Xiaomi Yi Car Cameraのプロセッサ部の様子である。パッケージには「YI」のロゴが入っており、チップ型名は「A12-60」だ。これだけ読むと、Xiaomiは、AmbarellaのA12を用い、パッケージだけカスタマイズして、製品に活用したと推測できる。また型名の「-60」は、1080@60fps(フレーム/秒)の「60」からネーミングしたのではないかと想像できる。
Xiaomiはチップの内作を行っているメーカーではない。スマートフォンでは主にQualcomm(クアルコム)の「Snapdragon」プラットフォームを活用し、ウェアラブル機器ではDialog SemiconductorのBluetooth対応マイコンを用いている。
中国メーカーは総じてXiaomiと同じモデルで成長を遂げている。QualcommやMediaTekのプラットフォームや、欧米の半導体メーカーのチップを用いている。あるいは中国のAllwinnerやRockchipのARMプロセッサにX-Powersの電源ICなどを組み合わせ、タブレットやシングルボードコンピュータ、STB(Set Top Box)やOTT(Over The Top)、スティックPCを販売する。
図4は、A12-60チップを開封した様子と、AmbarellaのA12チップを開封した結果を比較したものである。A12-60とA12が全くの別物であることが判明した。AmbarellaのA12には、チップ内部に同社のロゴマークが埋め込まれていて、チップの各所には、ファブ(製造工場)を判定する手掛かりになる情報が多々載っている。一方でA12-60には、型名もロゴも年号も搭載されていなかった。
ひょんなことから、チップの正体が分かる時も
当社は実際のチップを開封して分析を行っている。多い週には60個ものチップを開封し、顕微鏡でチップの各所を観察し、分析する。分析の内容は主に、サイズ(チップのサイズ、設計部品のサイズ、実装部分の面積など)、プロセス、使用しているIP(Intellectual Property)、インタフェース、さらにはコストを含めた、チップの特徴などだ。
A12-60には型名やメーカーを特定できる情報が載っておらず、現時点では、より詳しい判定はできていない。しかしチップ調査が終わることはない。
当社は今後も続々とドライブレコーダーやADAS機能付き機器、アクションカメラなどを分解し、チップ開封を行っていく。ひょんなことから、判定保留にしていたチップの素性が分かることがあるからだ。
一例を紹介しよう。中国に、TIOTECHという、ドライブレコーダーを販売する会社がある。同社のドライブレコーダーには、「TIOTECH A8」という型名がパッケージに刻印されたチップが搭載されていたが、当時はどこのチップが使われているのか、判定できなかった。
TIOTECHチップを開封したときには判断ができなかったが、のちに台湾NOVATEKのチップをいくつか開封し、そのチップを、判断保留としていたTIOTECHチップと並べてみたときに、同じものであることが判明した。TIOTECHは機器メーカーであり、半導体の開発を行っていない。NOVATEKのチップを活用し、パッケージにだけTIOTECHのマークを入れていることが明確になった。
今回報告したXiaomi Yi Car Cameraに搭載されているA12-60の中身の詳細は確認できなかった。現時点では次の3つの可能性を挙げておきたい。
- Xiaomiが自身でチップを開発
- Xiaomiが仕様を決めて設計を委託したASIC
- 台湾NOVATEKなどのチップを採用
3つ目が最も有力だと思われるが、今回は最終的な結論を出すまでに至っていない。ただ、中国でもADAS機能付きドライブレコーダーが続々と販売されており、今後も当社はこれらの製品群を調査していくので、A12-60の素性は必ず明確にしたいと思っている。
⇒「製品分解で探るアジアの新トレンド」連載バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ARMがもたらした“老舗コンサバ、新興アグレッシブ”の現状
ARMコアを使うことで、中国半導体メーカーも最新のCPUコアを用いたチップが作れるようになった。それは同時に、中国において、「老舗のメーカーは守りに入り、新興のメーカーに攻めに出る」という状況をもたらしている。 - 「iPhone 7 Plus」を分解
2016年9月16日に発売されたApple(アップル)のスマートフォン「iPhone 7 Plus」を、iFixitが分解した。 - QualcommのNXP買収、業界に及ぼす影響(前編)
Qualcomm(クアルコム)が、NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)の買収を正式に発表した。この買収の影響を、車載分野を中心に検証していきたい。 - 中身が大変身した「iPhone 7」とその背景
2016年9月に発売されたAppleの新型スマートフォン「iPhone 7」。一部では、あまり目新しい新機能が搭載されておらず「新鮮味に欠ける」との評価を受けているが、分解して中身をみると、これまでのiPhoneから“大変身”を果たしているのだ。今回は、これまでのiPhoneとiPhone 7の中身を比較しつつ、どうして“大変身”が成されたのかを考察していこう。 - 7nmプロセス開発、ファウンドリー間の競争激化
2016年12月に米国で開催される、最先端電子デバイスの研究開発に関する国際学会「IEDM 2016」で、TSMCが7nmプロセスに関する発表を行う。7nmプロセスの研究開発では、TSMC、GLOBALFOUNDRIES(GF)、Samsung Electronics(サムスン電子)が火花を散らしている。 - TSMC、Apple「A10/A11」をほぼ独占的に製造か
TSMCは、Appleの「iPhone」向けプロセッサ「A10」および「A11」(仮称)の製造を、ほぼ独占的に製造することになるとみられている。もう1つのサプライヤーであるSamsung Electronics(サムスン電子)に対する優位性をもたらしたのは、独自のパッケージング技術「InFO」だという。