「日本の顧客のために」を貫き通す商社:半導体商社トップインタビュー 丸文(2/2 ページ)
再編が進み、急速に変ぼうを遂げつつある半導体業界。半導体製品を扱う商社にも変化の波が押し寄せつつある。そうした中で、EE Times Japanでは、各半導体商社のトップに今後の戦略を問うインタビュー企画を進めている。今回は、2016年3月期に過去最高売上高を更新するなど近年成長を続ける丸文の社長である水野象司氏に聞く。
KTLを傘下に――M&Aは「相乗効果を重視」
EETJ 2016年3月期売上高2795億円、経常利益33億円に対し、2019年3月期売上高3000億円、経常利益65億円の中期目標を掲げておられます。そうした中で、2016年4月にケィティーエル(以下、KTL)の全株式を取得し完全子会社化されました。事業規模拡大に向けて、M&Aは不可欠とお考えですか。
水野氏 売り上げ目標3000億円については、M&Aは考慮しておらず、有機的な成長で達成したいと考えている。M&Aについては、売り上げ規模を追うために実施するのではなく、あくまで、相乗効果が見込めるかどうかを重視して実施していきたい。
KTLについても、注力する自動車、産業機器市場に顧客を持ち、最大仕入れ先が当社と同じTexas Instrumentsであることなどから、大きなシナジーが見込め、子会社化するに至った。今後、KTLの顧客に対しても、丸文/丸文アローのグローバルな販売網や多彩な商材を提供し、ビジネスの拡大を見込むことができる。
海外発の新技術に積極投資
EETJ 中期目標達成に向けた施策の1つとして「イノベーションへの積極投資による新規事業創造」を掲げています。
水野氏 日本国内の顧客を支援するという面では、海外での事業展開に対する支援とともに、海外の革新的技術や製品を提供することも重要な役割だと考えている。米国のシリコンバレーやボストンなどの拠点で、スタートアップを中心とした革新的技術、製品を持つ企業をいち早く発掘し、時には、そうしたスタートアップ企業への資本参加も行う活動を進めている。
EETJ イノベーションへの投資例を教えてください。
水野氏 高周波アナログ技術を持つ「FINsix」がある。米マサチューセッツ工科大学発のベンチャー企業であり、高速スイッチング技術でAC-DCアダプターを従来の半分のサイズで実現している。2015年夏に資本参加し、国内販売代理店契約を締結した。既に大手ノートPCメーカーに採用され、国内でも引き合いの多い商材だ。
ことし2016年でいえば、3月に米国のベンチャー企業であるMC10(エムシーテン)とも国内販売総代理店契約を締結した。かなり先進的なウェアラブルバイオセンサーモジュールを製品化しており、期待できる商材の1つだ。
EETJ もう少し詳しく教えてください。
水野氏 MC10のモジュールは「BioStamp」(バイオスタンプ)との名称で、柔軟性に富む点が大きな特長だ。
これまでのウェアラブルセンサーの多くは、曲げたり、伸縮したりすることが難しく、装着した場合に違和感が生じた。一方でBioStampは、柔軟な樹脂の中に電子回路を入れ込み、無線機能や各種センサーを内蔵しながらもクニャクニャと曲がり、伸び縮みもする。そのため、違和感が小さく、数日連続装用も可能であり、常時モニタリングが必要な投薬効果測定などの医療用途にも応用できる。
まずは、見守りセンサーやヘルスケア、スポーツ分野での拡販を目指すが、将来的には本格的な医療用途での利用を見込んでおり、現在、対応を進めている。
EETJ 今後、獲得を目指す新商材などはありますか。
水野氏 これまでは、北米主体でイノベーション商材の発掘を進めてきたが、これに加えて、アジア、とりわけ台湾での活動も強化しているところだ。現時点でも、50社ほどの新規商材候補リストがあり、しっかりと精査しながら、顧客に優れた製品、技術を紹介していきたい。
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