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有機ELの電子注入層と輸送層に向けた新物質:東工大が透明酸化物半導体開発(2/2 ページ)
東京工業大学の細野秀雄教授らは、有機ELディスプレイの電子注入層と輸送層に用いる透明酸化物半導体を開発した。新物質は従来の材料に比べて、同等の仕事関数と3桁以上も大きい移動度を持つ。
電子輸送層用のアモルファス亜鉛シリケート
電子輸送層に用いる物質としては、アモルファス亜鉛シリケート(a-ZSO)を新たに開発した。電子移動度が最大1cm2/(V秒)で、n型有機半導体に比べて3桁以上も大きく、陰極となるIOT膜やアルミニウムとは電気的な障壁が存在しない「オーミック接触」となる。しかも仕事関数は3.5eVで、既存の酸化物半導体に比べても極めて小さい。
研究グループは、新たに開発したa-C12A7電子化物を電子注入層に、a-ZSOを電子輸送層にそれぞれ用いて、逆構造の有機ELデバイスを作製した。そうしたところ、一般的に用いられているLiFとAlを用いた順構造のデバイスに比べて、優れた特性を示すことが分かった。しかも、ZSOは移動度が大きく透明であることから、膜厚を現行の10倍にしてもEL特性にはほとんど影響しないことが分かった。膜厚を十分に確保することで、ピンホールによる陰極と発光層の短絡を防止することもできるという。
研究グループは、今回開発した技術が有機ELのみならず、照明や太陽電池などのデバイスにも応用できるとみている。
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