集約進むタッチパネル市場、生き残りの鍵は2つ:ディスプレイ総覧2017(2)(3/3 ページ)
市場の淘汰(とうた)が進みつつあるタッチパネル市場を取り上げる。タッチパネルの主力用途であるスマートフォン市場の成長が鈍化していく中で、タッチパネルメーカーが生き残って行くためのキーポイントを見ていく。
タッチセンサーのイノベーション
タッチセンサーは、インセル、オンセルといったディスプレイ組み込み型を除けば、ガラスセンサーとフィルムセンサーに大別される。これまでは比較的ガラスセンサーが、ハイエンド側で使用され、フィルムセンサーはローエンド側で使われるという構図だった。余談だが、ハイエンドのガラスセンサーが、インセル、オンセルへと置き換わり、フィルムセンサー領域でも一部インセル、オンセルへの置き換わりが始まりつつある状況にある。
こうした状況下で、フィルムセンサーがフレキシブル化に対し、新しい付加価値を得つつあるということ。ただ、これまでのようにどこのメーカーでも作れるわけではなく、フィルム基板をPET(ポリエチレンテレフタレート)からCOP(シクロオレフィンポリマー)に置き換えたり、ダイヤモンドパターンを使い層数を2層から1層に削減したりした、高機能なフィルムセンサーを実現する必要がある。
インセル、オンセルもフレキシブルに対応できる有力な技術ではあるが、これまでリジッドでできていたことも、フレキシブルでは途端にできなくなる制約も生じる見込みで、全てがインセル、オンセルとはならずに、フィルムセンサーとの共存状態が続くのが現実的とみている。
車載向けタッチパネルで求められること
車載向けタッチパネルでは、やはり、車載特有の耐久性が求められる。高温低温対応、ヒートサイクル耐性、耐湿性、耐紫外線性などの面で技術的イノベーションが要求される。ただ、技術的に優れているだけではなく、自動車メーカー側との信頼関係を構築しておくことが重要になる。いくら性能に優れ、供給能力を保持していても、採用に至らないケースもある。そういった背景を考えると、車載分野での長く実績を積んできたタッチパネルメーカー、特に日本メーカーが優位な位置にあると言える。とはいえ、中国メーカーも追随してきており、中国地場の自動車メーカーの中国国内モデル向けで力を付けている。
オンセル、インセルの普及状況
2017年の予測値だが、タッチパネル市場全体に占めるオンセル、インセルの割合は56.3%となり、初めて静電容量方式(41.1%)を上回る見込み。オンセル、インセルの普及がタッチパネル産業の成長鈍化に拍車を掛けている存在であることは違いない。
ただ、アドオン(外付け)タッチパネルの単価がとても下がっているためそれを置き換えるオンセル、インセルは以前タッチパネル産業が享受してきたような付加価値をそのまま受け継ぐということにはならない。特に今後浸透するミッドレンジ以下の市場では、ハイエンドにはあったオンセル、インセルプレミアは期待できない。
このため、今後の拡大市場には価格競争力のある中国ディスプレイメーカーが参入し、プレミアが残る既存のハイエンド市場を日韓のディスプレイメーカーが奪い合うという構図になる。
スマートフォン向けでの技術イノベーション領域
スマートフォン向けタッチパネルに求められる新たな機能としては、3Dタッチ対応やアクティブペン入力対応とともに、指紋認証機能が挙げられる。ディスプレイを狭額縁化し、筐体前面をディスプレイで覆うデザインへと向かいつつあり、物理ボタンを廃止する流れにある。その中で、現状、ホームボタンに複合化している指紋認証機能をタッチパネルに取り込む必要性が生じている。指紋認証機能を実用化できれば、優位性を発揮できるだろう。
タッチパネルの成長予測
現状、タッチパネルの用途内訳は、約80%がスマートフォン、約10%がタブレット+ノートPC。自動車向けは現状2.6%で、これが4〜5年後に3%に達する予測見込み。市場全体の成長率は、今後4〜5年間で年平均3〜4%の成長を見込んでいる。
市場全体から見れば、自動車向けや産業機器向けは規模が小さいが、着実にタッチパネルが普及していく。これらの市場では、これまでのように供給規模を求められず、カスタム対応や少量多品種対応が求められるため、日本に多い小規模メーカーが優位に立てる。自動車向けや産業機器向けでしっかり利益を確保し、生き残るという道ももちろん存在している。
大井 祥子(おおい・しょうこ)氏/IHS Markit テクノロジー
ハイテク系分野、特にFPD市場の調査においては部材〜関連アプリケーションまで、前職の市場調査会社と併せ豊富なアナリスト経験と知識を持つ。2010年12月にDisplaySearch社に入社、タッチパネルに関するマーケット調査、分析および、関連レポートの執筆を担当する。新聞、専門誌などに掲載、国内外における講演活動も行う。2014年11月にDisplaySearchはIHSの傘下に入り、以降主席アナリストに就任。
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