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価格競争は早めに手放す、付加価値の追求を急げイノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(18)(2/2 ページ)

HDD業界は、再編が最も激しい分野の1つだろう。現在はもうHDD事業に携わっていない2社の関係を振り返ると、価格競争の厳しさが非常によく分かる。

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手ごわいMaxtor

 松下寿も、Maxtorに売却された、Quantumの旧HDD部門の製品を、一本松町とシンガポールにある工場で引き続き製造していた。

 ところが、製造の価格交渉になると、Maxtorは手ごわい相手となった。Maxtorは東南アジアに自社工場を持っていたので、コスト構造が全て分かるのだ。それ故、松下寿に対し、「もっと安くできるはずだ」とプレッシャーをかけ始めたのである。

 何度も協議を重ねたが、両社の折り合いはつかず、製造委託を解消することになった。その結果、松下寿は2002年8月をもって、シンガポールの子会社におけるデスクトップPC向けHDD製造から撤退している。当時の松下寿の発表では、デスクトップ向けHDDの製造はMaxtorに移管して、松下寿はハイエンドHDDの他、流体軸受けモーターなどの部品製造を拡大していくと述べていた。そのころ松下寿は、事業の多角化を図るべく、インドネシアのバタム島にある工場で、HDDの磁気ヘッドの製造にも参入しようとしていた。ところが、歩留まりが40〜50%と、とんでもなく低く、磁気ヘッドの製造は全くビジネスにはならない状況だった。

 その後、松下寿は2005年4月に社名を「パナソニック四国エレクトロニクス(PSE)」に変更。2005年5月には、東芝が、PSEの北米HDD開発センターを買収すると発表した。さらに松下寿は、以前から手掛けていた血糖値測定器などをベースに、事業を医療関連分野に大きくかじを取り、2010年10月には社名も「パナソニック ヘルスケア」に変更した。現在はHDDとは全く関係のない、血糖値計などの診断機器や医療IT、研究/医療支援機器といった医療機器関連のビジネスを行っている。

内蔵HDDメーカーの生き残りは4社

 結局、Maxtorも2005年、HDDメーカーとしては最も古い米Seagate Technologyに約23億米ドルで買収された。現在、ブランドとして残っているHDD(内蔵)メーカーは、Seagate Technologyの他、東芝、Western Digital(ウエスタンデジタル/WD)、WD傘下のHGST*)のみである。1980年代には70社以上ものメーカーがあったことを考えると、いかに激しく変遷してきたかが分かるだろう。

*)HGSTは、日立製作所傘下のメーカーで、旧社名は「日立グローバルストレージテクノロジーズ(Hitachi Global Storage Technologies)」である。WDによる買収に伴い、略称だった「HGST」が正式な社名となった。


主なHDDメーカーの変遷の歴史。各社とも主要な動きだけを取り上げている(クリックで拡大)

 HDD業界は長い間、利幅の少なさに苦しんできた。松下寿とMaxtorの交渉がうまくいかなかったのも、生産技術ではなく価格の問題だった。冒頭で述べた通り、東芝もHDD事業の黒字化を目指し構造改革策を発表している。これは、HDDだけではなく、どの業界にもいえることだが、コモディティ化して価格競争に突入すると、どうしてもメーカーは苦しくなる。技術開発よりも価格競争に重きが置かれるようになったら、できるだけ早く、付加価値の追求に移るべきだと筆者は感じている(関連記事:「VIZIOの4Kテレビはなぜ売れた? 「意味的価値」の追求」)。

 もう1つ、HDDには、ずいぶんと前から「いつ、SSDがHDDに取って代わるのか」という議論がつきまとってきた。SSDの台頭を考えれば、HDD業界の激しい変遷もうなずけるが、それにしてはよく踏みとどまっているというのが筆者の印象である。

 なお、2017年8月31日から9月1日にかけて、IDEMA JPAN(日本HDD協会)が「国際ディスクフォーラム」(東京都大田区の大田区産業プラザ)を開催する。内容については、EE Times Japanの連載「福田昭のストレージ通信」第55回「ハードディスク業界の国内最大イベント、8月末に開催」に詳細が書かれているので、ぜひご一読いただきたい。HDD市場とSSD市場の今後の展望も語られるようなので、非常に興味深い。


「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー


Profile

石井正純(いしい まさずみ)

日本IBM、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーにAZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。

米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍。

AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。

新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。


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