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半導体レーザーのカオス現象で強化学習を高速化:1ナノ秒で意思決定(2/2 ページ)
情報通信研究機構(NICT)の成瀬誠主任研究員らによる研究グループは、半導体レーザーから生じるカオス現象を用い、「強化学習」を極めて高速に実現できることを実証した。
1ナノ秒で強化学習を実現
実験では、レーザーカオスを最大1000億回/秒でサンプリングし、データ処理をオフラインで行った。2台のスロットマシンの当たり確率を[0.2、0.8]、[0.4、0.6]と設定した場合に、正しい意思決定が行えるかどうかを検証した。スロットマシンの当たり確率は10ナノ秒ごとに入れ替えた。
実験結果から、事前の知識が全くない状態から強化学習を行った場合、レーザーカオスの信号を50ピコ秒間隔でサンプリングしたときに、最も適応性に優れた性能が得られた。約20回の試行で正解率は9割台となった。1ナノ秒という極めて短い時間で強化学習を実現したことになる。
レーザーカオスの波形を特徴づける自己相関関数の値は、強化学習の性能が最大となるサンプリング間隔50ピコ秒のときに、負の最大値を示した。これに対して、負の自己相関の最大値がより大きな擬似周期信号では、レーザーカオスを用いた場合よりも強化学習の性能が劣ることが分かった。
強化学習はこれまで、コンピュータ上のアルゴリズムを用いて実現されてきた。今回の研究成果により、レーザーカオスを用いた方式が実証された。これにより、極めて高速な強化学習を実現することが可能になるとみている。
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