圧電体の結晶構造、短時間で変化することを解明:非鉛圧電体材料の開発にも期待
東京工業大学の舟窪浩教授らによる研究グループは、圧電体における複雑な結晶構造の変化が、極めて短い時間に起きていることを実験により初めて解明した。
SPring-8の高輝度放射光を用いて、時間分解X線回折実験
東京工業大学の舟窪浩教授らによる研究グループは2017年8月28日、圧電体における複雑な結晶構造の変化が、40ナノ秒以下の短時間に起きていることを実験により初めて解明したと発表した。
圧電体は、電気的エネルギーを機械的エネルギーに、あるいはその逆に変換することができるエネルギー変換物質である。この特性を利用して、インクジェットプリンタのヘッドや自動車エンジンの燃料噴射ノズル、デジカメの手振れ防止機構など、さまざまな用途に応用されている。また、振動による発電と振動検出センサーとしての機能を組み合わせることで、バッテリーが不要なIoT(モノのインターネット)センサーとしての応用例なども注目されている。
圧電体は、外圧や電圧によって圧電効果や逆圧電効果などが得られる。この時、原子の変異や単結晶領域の再配列など、複数の現象が生じていることは知られていた。しかし、その速度までは解明されていなかったという。そこで研究グループは今回、大型放射光施設「SPring-8」の高輝度放射光を用いて、時間分解X線回折実験を行った。
実験では、SPring-8表面界面構造解析ビームライン「BL13XU」と同施設にある物質・材料研究機構(NIMS)のビームライン「BL15XU」を用いた。数マイクロメートルに集光した高輝度の単色パルスX線を、チタン酸ジルコン酸鉛膜上に形成した電極に照射し、200ナノ秒幅のパルス電圧を印加して、回析プロファイルと電荷量の変化を観察した。
この結果から、電圧を印加すると結晶の伸びや電圧印加方向にドメインが再配列していることなどが判明した。結晶の単結晶領域の傾斜角度が同時に変化していることも明らかとなった。
これらの複雑な現象は、実験に用いた測定システムの分解能である40ナノ秒よりもさらに高速で、同時に起こっていることが明らかとなった。
研究グループは今回の成果について、「チタン酸ジルコン酸鉛以外の物質における圧電性の発現機構解明」や「圧電体の新規物質探索」「非鉛圧電体の開発」などにつながるとみている。
今回の研究は、東京工業大学物質理工学院の舟窪氏(同大学元素戦略研究センター兼任)の他、同大学院総合理工学研究科の江原祥隆博士後期課程学生(当時)、同大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の安井伸太郎助教、名古屋大学大学院工学研究科の山田智明准教授(科学技術振興機構さきがけ研究者兼任)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の今井康彦主幹研究員、NIMS技術開発・共用部門の坂田修身ステーション長(先端材料解析研究拠点シンクロトロンX線グループグループリーダー併任)、ニューサウスウエールズ大学(オーストラリア)のナガラジャンバラノール教授らが行った。
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