モノマネする人工知能 〜 自動翻訳を支える影の立役者:Over the AI ―― AIの向こう側に(16)(10/10 ページ)
最近の機械翻訳の発展には目を見張るものがあります。なぜ、ここまで進化しているのでしょうか。AI(人工知能)による翻訳、通訳を取り上げ、その発展の理由を探ってみると、その根底には、あるパラダイムシフトが存在していたことが分かりました。
「AIによる人類支配」とは、AIを「いじめ」の対象とする世界?
ところで、私は、「AIによる人類支配」なる戯言(ざれごと)を語る人間を、徹底的に批判し続けてきた1人で、今なお、その姿勢は変わっていません(関連記事:「へつらう人工知能 〜巧みな質問を繰り返して心の中をのぞき見る」。
ただ、この「AIによる人類支配」なる戯言については、最近、私は、視点を換えて考えることができるかもしれない、と考え始めています。
今後「自動翻訳」の技術が向上しようとも、「翻訳」が運命的に外交問題を発生させることは避けられないと思います。
しかし、これは、外交問題の原因をAIに押し付けることができるということです。
人間と違って、AIは、どんなに非難されようとも、どんなに叱責されようとも、落ち込んだり、辞任を申し出たりすることはありません。
私たちは、AIに責任転嫁をはかり続けることで、国家間の紛争を円滑にするアプローチを、見いだせるのかもしれません。
それはつまり ―― 「AIによる人類支配」とは、AIを「いじめ」の対象とする世界という形で完成するのかもしれない ―― ということです。
⇒「Over the AI ――AIの向こう側に」⇒連載バックナンバー
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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