Z-Wave買収でスマートホームに攻勢、シリコンラボ:必要なプロトコルがそろった(2/2 ページ)
IoT向けの無線通信SoC(System on Chip)のラインアップ強化を図るSilicon Laboratories(シリコン・ラボラトリーズ)。2018年4月には、Sigma DesignsのZ-Wave事業を買収した。
年間数十億米ドルのスマートホーム市場
Grieshaber氏は、「Z-wave技術が、われわれにとって魅力的な理由はいくつもあるが、最大の理由が、スマートホームに特化しているということだった。IoT市場は多岐にわたるが、その中でもスマートホームは、市場形成が最も加速していると当社はみている。既存のSoCとモジュールがサポートしているWi-Fi、Bluetooth、ZigBee、Thread、独自プロトコルに、Z-Waveが加わったことで、当社は、年間数十億米ドルにも上る市場に、アプローチできる機会を得たことになる」と語る。「さらにZ-Waveは、エコシステムと密接して技術開発を進め、しっかりと互換性を確保している。そのように、エンドユーザーやユーザー体験を一番に考えて開発されているという点が魅力的だった」(Grieshaber氏)
Silicon LabsのZ-Wave製品としては、Sigma Designs時代から提供してきたモジュール「500 Series」と、間もなく正式に提供が開始される「700 Series」を展開する。700 Seriesでは通信距離が500 Seriesに比べて大幅に伸びる。ポイント・ツー・ポイントでは100m、ホップを実現するメッシュネットワークとしては400mとなり、庭の端と端や、1階から2階、3階など複数の階層をまたいでの通信が可能になる。さらに、低消費電力化も実現し、センサーでは1個のコイン形電池で10年駆動することもできるという。500 Seriesは、コイン形電池で駆動できなかった。
センサーへの搭載が増える
Pederson氏は、「Z-Waveは、照明、サーモスタット、ドアロックなど多くの家庭用機器に搭載できるが、照明に搭載することが圧倒的に多かった。だが、低消費電力の低減と通信距離の増加を実現した700 Seriesの登場によって、センサーへの搭載が今後は増えていくのではないか」と述べる。Zion Market Researchは2018年4月、IoTセンサー(加速度センサー、角速度センサー、照明センサー、圧力センサー、温度センサーなど)の世界市場は、2022年までに274億米ドルに達するとの予測を発表している。700 Seriesによって、このように規模の大きいセンサー市場を狙いやすくなったことは、Z-Waveの普及を後押しするはずだとPederson氏は強調する。
では、センサーに搭載しやすくなったことで、スマートホーム以外の市場にも参入する予定はないのだろうか。これについてPederson氏は、「Z-Waveがスマートホーム以外の市場を狙うことはない」と言い切る。「他の市場にも手を広げると、互換性の確保やセキュリティなどが複雑になったり難しくなったりすることがある。互換性もセキュリティも、Z-Waveの大きな特長であるため、それを犠牲にはできない」(Pederson氏)
Pederson氏は、今回の買収について「Silicon Labsがこれまで蓄積してきたIoT市場やIoT技術についての知見は、Z-Wave事業を展開し、同技術を普及させていく上で大きな利点になる」と強調する。
「Wireless Gecko」への統合は?
では、Z-Waveの500 Seriesと700 Seriesは、いずれWireless Geckoのプラットフォームに統合されていくのだろうか。
これについてPederson氏は、「それについては現在、いろいろな議論を進めているさなかだ。今回の買収によってSilicon Labsはさまざまな通信プロトコルを組み合わせる機会が増えたわけだが、Z-Waveモジュールの位置付けについて発表できるのは、もう少し先になるだろう。現時点で言えることは、Wireless Geckoを含め、Silicon Labsの既存のツールとプラットフォームを活用できることは、Z-Waveモジュールにも大きな利点を生むということだ」と述べた。
「Gecko」にまつわるエピソード
Silicon Labsの「Wireless Gecko」には、ちょっと面白いエピソードがある。“Gecko”とは英語でヤモリのことで、Wireless Geckoを開発した当時、Silicon Labsは、ロゴ用にヤモリのイメージを作ろうとしていた。ところが、使えそうな画像を探していても、どうもしっくりくるものがない。
そこで、担当しているデザイナーは、実際にペットショップかどこかでヤモリを2匹買い、その2匹を撮影スタジオに運んで、写真を撮らせたのだという。
撮影終了後は、「彼らもれっきとした、Silicon Labsの一員だから」ということで社内で飼い始めたが、最終的には、ある従業員の息子(動物好きだそう)が飼いたがり、その一家に引き取られた。その後、なんと2匹のヤモリは、つがいとなり、赤ちゃんヤモリも生まれたという。おとぎ話風に結ぶならば、「その後いつまでも幸せに暮らしました……」といったところだろうか。
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