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垂直統合にシフトして利益を生み出すApple半導体を自社製品に“横展開”(2/2 ページ)

Appleはなぜ、多大なコストが掛かるにもかかわらず大規模な半導体設計を自社で行おうとしているのだろうか。そして、既に市場での実績を築いている半導体企業と同等以上の性能を備えたICを設計できるのだろうか――。半導体を自社設計することは、どう考えてもリスクが大き過ぎる。

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「A11」で自社開発GPUとNeural Engineを追加

 2017年の「A11」に話を進めよう。下の写真は、そのSoCのダイである。A11は、Appleにとって初となる自社開発GPUと「Neural Engine」を搭載しており、いずれも設計の重要な一部を担っている。Appleは、「iPhone X」のプレスリリースの中で、マシンラーニング機能でも、この2つを採用していることを明らかにした。特に、顔認識機能「FaceID」とAnimoji(アニ文字)は、Neural Engineによって動作可能になるという。


「A11」のダイ写真

 ここで重要なのは、iPhoneの性能およびユーザーエクスペリエンスの中核を成す、GPUとNeural Engineの2つのSoCブロックが、追加で搭載されているという点だ。いずれのブロックも、マシンラーニングに貢献することから、将来的に重要性が高まっていくとみられる。

 Appleが設計能力を高めていることを示す証拠は、数多く存在する。Jobs氏が、A4を発表した当時に期待していたように、他のスマートフォンに対するiPhoneの差別化要素は、こうした設計力なのだろうか。

 例として、FaceIDを取り上げてみたい。Appleは、顔認識などの特徴的な機能を、興味深いものとして捉えているようだ。顔認識技術の周辺にIP(Intellectual Property)を実装すべく、企業の買収なども検討している可能性もある。一部の技術はソフトウェアに、その他の技術はハードウェアに実装されることになるだろう。

 Appleは長年にわたり、さまざまな基調講演の中で、ソフトウェア/ハードウェアエンジニアの協調関係を重視してきた。

 チーム間のミーティングではたいていの場合、以下のような会話を耳にするだろう。

 「AとBのルーチンを実行することができるハードウェアが必要だ」

 「そのほとんどを提供できるが、このブロックでこうした動作ができるよう、ルーチンを修正してもらえないだろうか」

 こうしたやりとりは、ハードウェアとソフトウェアの統合と構築が実現するまで続く。このようなプロセスを経て設計された回路ブロックは、恐らくAppleだけにしか役に立たないものになるだろう。しかし、それで構わないのだ。

 Appleは、自社設計した半導体を着々と、他のApple製品にも適用し始めている。「Apple Watch」の「Sシリーズ」、「AirPods」の「Wシリーズ」、そして「MacOS」端末の「Tシリーズ」といった具合だ。

 Appleは着実に半導体設計の能力を上げ、興味深いIPを構築し続けている。半導体の設計リソースを垂直統合的に使用することは、Appleのエコシステムに多大な利益をもたらす。Appleの半導体設計者たちは、「世界一」になる必要はない。Appleの顧客にとってのみ、「一番」になればいいのである。

【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】

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