Intelの創業7年目(1974年):「シリコン・サイクル」の登場:福田昭のデバイス通信(176) Intelの「始まり」を振り返る(9)(2/2 ページ)
Intelの創業7年目(1974年)に焦点を当てる。業績は極めて好調で、収入が1億米ドルを超えた。一方で四半期業績にはピークと低下がみられ、「シリコン・サイクル」が登場していることが分かる。
半導体メモリの供給過剰によって四半期収入が低下
1974年の年次報告書からは、四半期ごとの業績を開示するようになった。数字は開示していないものの、1973年の四半期業績もグラフで表示した。1973年は四半期の収入が右肩上がりで前の四半期を常に上回っていたのに対し、1974年は第2四半期をピークにして第3四半期と第4四半期は前期比で連続して収入が減少した。
この変化について年次報告書は、半導体メモリ市場に需給バランスの大きな変動が発生したことによるものだと説明している。1974年の前半は半導体メモリの需要が非常に強力だった。しかし1974年の後半、具体的には第3四半期に入ると半導体メモリの需要が弱まり、続く第4四半期には需要がさらに弱まったとする。
重要なのは、年次報告書ではこのような需給環境の変化は「多くの半導体メーカーに見られる共通のパターン」だと記述していることだ。主な原因は2つあるとする。第1の要因は、世界経済の減速によって半導体ユーザーが生産計画を見直したことで相対的に供給が過剰になったこと。第2の要因は、1974年初頭に品不足に陥った半導体ユーザーが在庫を積み増し、同年後半になって在庫を取り崩したこと。すなわち半導体ユーザーからの注文が減少したこと。
さらには、大量の流通在庫を抱えることによる在庫コストの増大を半導体ユーザーが嫌い、在庫を低い水準に抑えるようになったこと。そして半導体製造の歩留まりが向上することにより、供給の自然増とコストの低下、そして価格の低下が発生すること。これらも要因として挙げていた。
これらの記述は、後から見ると「シリコン・サイクル」あるいは「半導体メモリ・サイクル」などと呼ばれる、半導体メモリの需給サイクルの急激な変化とその分析であることが分かる。そしてこのような冷静な分析にもかかわらず、半導体メモリ業界は1974年以降も、需給バランスの急激な変動による価格上昇と価格崩壊を繰り返すことになる。
(次回に続く)
創業1年目 | 研究開発主体で売り上げは「ゼロ」 |
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創業2年目 | 初めての製品売り上げを計上するも赤字は拡大 |
創業3年目 | 売り上げが前年の11倍に急増して赤字が縮小 |
創業4年目 | (前編)半導体メモリのトップベンダーに成長 |
(後編)最終損益が黒字に転換 | |
創業5年目 | (前編)収入が前年の2.5倍に、初めての営業黒字を計上 |
(後編)腕時計メーカーになったIntel | |
創業6年目 | クリーンルームに防塵衣がまだなかった頃 |
創業7年目 | 「シリコン・サイクル」の登場 |
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