「Shift Left」で車載システムの開発工程を変革:仮想ECUでソフト開発を前倒し
Synopsysは、車載システムの開発プロセスを変革するために、「3つのShift Left(前倒し)」を提案する。
エコシステムでソフトウェアIPを利活用
Synopsysは、車載システムの開発プロセスを変革するために、「3つのShift Left(前倒し)」を提案する。自動運転車に必要となる要件をチップ設計の段階から組み込み、バーチャルECUを用いて、ソフトウェア開発を前倒しで行うなどのソリューションを提供する。
日本シノプシスは2019年2月27日、「オートモーティブ開発ソリューションセミナー」を東京都内で開催した。Synopsysのオートモーティブ担当副社長であるBurkhard Huhnke氏は、自動運転車の開発に向けて、「現状の車載システム開発プロセスからの脱却」をテーマに、キーノートスピーチを行った。この中で強調したのが「3つのShift Left」である。
Huhnke氏は、前職のVolkswagenにおいて斬新なコンセプトやビジネスモデルの開発、北米における電動自動車プラットフォームの総責任者などを務めた経験がある。当時から、運転車の判断ミスなどから生じる死亡事故や交通渋滞などを「ゼロ」にする、自動運転車の実用化にかかわってきた。ただ、ソフトウェアの信頼性なども含め、現行の技術レベルでは自動運転での「死亡事故ゼロ」までは至っていないという。
これを可能にするには、「車載システムのアーキテクチャを変更する必要がある」と主張する。自動車の電子化が進み、搭載されるECU数も1台当たり60個を超える。これに伴い、実装されるソフトウェアも膨大になってきた。これらがその背景にある。Huhnke氏によれば、自動車のユニットコストは、総額が最大1万4000米ドルで、1995年当時から大きくは変わらない。しかし、電子デバイスとソフトウェアが占める割合は、1995年の約40%(5600米ドル)に対して、2025年は65%(9100米ドル)と大きく伸びる可能性が高いという。
ところが、自動運転に必要な要件を満たそうとすると、開発するソフトウェアは大規模かつ複雑になる一方だ。例えば、2010年製の「AUDI A8」に搭載させるソフトウェアは1000万SLOC(ソースコード行数)であった。これが2018年製の「AUDI A7」では、1億5000万SLOCに増えた。さまざまな機能が追加されて、車に搭載されるソフトウェアのコードサイズが大きくなる中で、「信頼性や安全性を保証するための検証は誰が行うのか」とHuhnke氏は指摘する。
こうした状況を踏まえ、Synopsysは開発プロセスの変革を提唱する。これまで60〜70個のECUが、車両全体に分散されて実装されていた。次世代のアーキテクチャはこれらを最適化し、「パワートレイン」「ADAS」「コンフォート」「インフォテインメント」「ゲートウェイ」など、5つのドメインに集約され、それぞれの機能に適したECUで制御することが重要となる。
ECUに搭載されるSoCやMCUの要求仕様も各ドメインによって異なる。例えば、ADAS向けは高い演算性能が求められ、ゲートウェイ向けは不正アクセスなどからシステムを保護するセキュリティ機能などが重要となる。
さらには、消費電力のさらなる低減や車載用途に適した長期信頼性など、基本的な性能向上を図るための微細プロセスや高度なパッケージ技術なども要求される。このため、SoCやECUなど実機(ハードウェア)を作製後にソフトウェア開発を行ってきたこれまでの開発プロセスだと、ドメインECUの開発に4年半も要することになる。
そこでSynopsysは、「3つのShift Left」を提案している。3つとは、「Synopsysが提供するバーチャルECUを用いたソフトウェアの開発」と「機能安全も含めた車載グレードSoCの早期設計」および、「エコシステムによるソフトウェアIPの利活用」である。これにより、ソフトウェア開発とシステムレベルの検証を早期に行うことができ、システムの開発期間を短縮することが可能となる。
Huhnke氏は、「プロセッサモデルの提供など、既に半導体業界で実績がある開発モデルである。全てのドメインECUに対応したバーチャルECUを用意して、自動車業界にも提供していく。これによって、ソフトウェアの開発を18カ月も前倒しして行える」と話す。SoC開発においても、「コンセプト設計の段階で実装すべき要件を確定しておけば、冗長回路なども含めて必要な機能をSoCに組み込むことができる。結果的にコストダウンにもつながる」と述べた。
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