微弱な刺激で発光、変形する「ソフトクリスタル」:最先端の研究が進む(2/2 ページ)
「結晶」でありながら、蒸気にさらしたり、こすったりといった極めて弱いマクロな刺激によって、発光や変色、変形など目に見える変化を見せる――。そんな、これまでの常識を覆すような新しい物質群「ソフトクリスタル」の研究が進められている。研究者らは、2019年4月、東京都内で公開シンポジウムを開催し、最新の研究内容を紹介した。
多様なデバイスへの応用も
例えば、外部刺激に対して発光色の変化を示すソフトクリスタルは、各種センサーや超高解像度のモニターなどへの応用が考えられる。電気伝導性や磁性といった電子物性が変化するソフトクリスタルは、不揮発性メモリなどの材料として利用できる可能性もあるという。加藤氏は、「液晶などの刺激応答性に優れたソフトマターと、緻密な構造制御ができる結晶の両方の特長を兼ね備えていて、これを生かせば、これまでにない低刺激応答性材料や機能性材料の開発が期待できる」と説明している。
最新の研究内容を紹介
研究には、化学分野では、現在ソフトクリスタル研究で世界をリードしているメンバーが共同して物質創生に取り組むと同時に、理論計算科学や数物、工学分野の研究者も参画している。
研究は、計画班と公募班を合わせて40を超えるグループが実施している。各グループは、大きく「形態開拓」「構造開拓」「物性、機能開拓」の3つの班に分かれるという。「形態開拓」の班は、金属間相互作用や有機分子間相互作用、水素結合などを織り込むことによって、構成分子を制御し、微量の蒸気や温度、機械的刺激など、さまざまな刺激に応答するソフトクリスタルの創製を行う。「構造開拓」の班は、生成機構と相転移の機構を明らかにすることで構造開拓を目指す。「物性、機能開拓」の班は、生成メカニズムと原理解明をするとともに、さまざまな機能材料との複合化や、工学的研究との融合を行い、新たな機能の創出などを目指している。
この日のシンポジウムでは、1つの結晶を押すと層が変わるようにして変形し、離せば元の形に戻る「超弾性」や、層が滑ることで、大きく変形しても結晶性が損なわれない「強塑性」を示す有機化合物結晶などの新たに発見されたソフトクリスタルを紹介。さまざまな最先端計測や理論計算による、学理、原理の解明に関する研究内容などを各研究の担当者が説明した。
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