5G用通信半導体がボトルネックになる時代:湯之上隆のナノフォーカス(12)(3/3 ページ)
“AppleとQualcommの和解”から、5G用通信半導体に関わるさまざまな事情が明らかになってきた。結論を一言でいえば、“最先端の5G通信半導体(の特許)がボトルネックになる時代が到来した”ということになる。本稿では、その詳細を論じる。
ボトルネックは通信半導体
現在、5G用通信半導体の開発に成功しているのは、QualcommとHuawei傘下のHisiliconの2社しかない。したがって、5G対応のスマホを販売するには、この2社に頼らざるを得ない状況となっている。要するに、最先端のスマホ(だけでなく通信機器)の開発のボトルネックは、通信半導体になったということである。
さらに、AppleがQualcommと和解せざるを得ない状況になったように、こと最先端の通信半導体の技術に関して言えば、特許を握っている者の立場が強いと言える。
ドイツの特許データベース会社のIPlyticsによれば、2019年3月時点の5G通信向け必須特許(Standard Essential Patent:SEP)の出願数で、中国のシェアが34.02%になったという(日経新聞5月3日付)。このシェアは、米国の2倍以上である。なお、SEPとは電子機器に使わざるを得ない特許を意味する。
そして、5G通信向けSEPの企業別シェアでは、中国のHuaweiが1位(15.05%)、ZTEが4位(11.7%)となり、Qualcomm(8.19%)やIntel(5.34%)を大きく上回っている(図3)。
米国は、「国防権限法」でファーウェイなど中国企業5社を排除する方針だが、HuaweiとZTEは5G通信のSEPを多数押さえているため、IPlyticsのTim PohlmannCEOは、「Huaweiは米国で製品を売ることができなくても特許利用料は獲得できる」と述べている(前掲の日経新聞)。
もしかしたら、“5G通信のSEPを多数握っているHuaweiが世界を制する時代”が到来しているのかもしれない。
筆者からのお知らせ
2019年5月22日(水曜日)に、東京・港区 芝公園 コンベンションホールAP浜松町にて「 【緊急開催】 米中ハイテク戦争とメモリ不況を生き抜くビジネスの羅針盤 」と題したセミナー(主催:サイエンス&テクノロジー)を行います。米中ハイテク戦争の背景や、半導体メモリの市況などについて、筆者が講演します。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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