温度変化で透明度が替わる液晶複合材料を開発:省エネ窓ガラスなどに応用
産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、温度が変化すると透明度が切り替わる液晶複合材料を開発した。全透過光量を制御することも可能で、省エネ窓ガラスなどへの応用を見込む。
プラスチックフィルム基板への展開も可能
産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、温度が変化すると透明度が切り替わる液晶複合材料を開発したと発表した。全透過光量を制御することも可能で、省エネ窓ガラスなどへの応用を見込む。
今回の開発は、産総研構造材料研究部門光熱制御材料グループの山田保誠研究グループ長や垣内田洋主任研究員と、神戸市立工業高等専門学校および、大阪有機化学工業らが共同で行った。
太陽光の通過量を制御できる調光ガラスは、建物や航空機の窓ガラスなどに向けて需要が拡大する。ただ、従来の液晶を用いた調光ガラスは、透過する光を制御するための透明電極や配線が必要となり、コストや設置条件で課題もあった。熱応答型の液晶複合材料も報告はされているが、温度によって後方散乱が変化する材料の開発は極めて難しかったという。
そこで研究グループは、温度変化により入射光の全透過率が大きく変わる、液晶と高分子の複合材料を開発することにした。今回開発した調光ガラスは、高分子ネットワーク液晶(PNLC)と呼ばれる、液晶と高分子からなる複合材料を2枚のガラス基板で挟み込んだ構造である。
作製方法は、2枚のガラス基板の隙間に液晶とモノマー、重合開始剤の混合原料を満たし、紫外線を照射して重合させる。高分子の網目に液晶が満たされた構造のPNLCは、30〜40℃の生活温度付近で透明と白濁の状態が切り替わるという。
例えば、低温環境では液晶分子が配向、液晶相と高分子相の屈折率が一致することでPNLCは透明になる。高温環境になると、液晶分子の配向が乱れて屈折率が変化し、光散乱によって白濁状態となる。この時、後方散乱が生じて、全透過率が大きく変化することも分かった。
開発したPNLCの特性を評価したところ、直進透過率と前方散乱を加えた全透過率は、変化幅が20%以上となった。この値は既存の調光ガラスと同等だという。透明状態での直進透過率は70%を上回る。温度変化に対する追従性にも優れている。ガラス基板で挟んだ材料の温度を30℃から50℃まで上げたところ、30秒以内に直進透過率は80%以上から10%以下へと下がった。
今回開発した熱応答型PNLCは、作製工程や動作原理がシンプルで、製造や施工、運用面でのメリットは大きいとみている。プラスチックフィルム基板への展開も可能だという。今後は、全透過率の変化幅の拡大と耐久性の向上に取り組み、早期の実用化を目指す。
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