単一マグノンの検出が可能な量子センサーを開発:超伝導量子ビットを活用
東京大学らによる研究グループは、超伝導量子ビットを用いて新しい「量子センサー」を開発したと発表した。これにより、単一試行測定で単一マグノンの検出が可能になるという。
単一マグノン検出の量子効率は71%
日本学術振興会外国人特別研究員(当時)のダニー・ラチャンス・クイリオン(D.Lachance-Quirion)氏と東京大学先端科学技術研究センターの中村泰信教授らによる研究グループは2020年1月、超伝導量子ビットを用いて新しい「量子センサー」を開発したと発表した。これにより、単一試行測定で単一マグノンの検出が可能になるという。
強磁性体は、巨視的なスピンとみなすことができ、スピンの向きは熱などによって揺らぐ。「マグノン」と呼ばれるこの揺らぎは、離散的な準粒子として扱うことができるという。しかし、これまでの実験的研究では、検出感度の課題などもあり、膨大な数のマグノンを対象としたものが一般的であった。
中村氏らの研究グループは、超伝導量子ビットとマイクロ波共振器内のマイクロ波光子との間で量子もつれを生成し制御、観測する研究を行ってきた。こうした超伝導量子ビットの分光実験により得られた成果を基に、今回は超伝導量子ビットの単一試行による読み出しで、単一マグノンを検出できる量子センサーの開発に取り組んだ。
開発に成功した量子センサーは、単一試行測定により、1個のマグノンがミリメートルサイズの強磁性結晶試料内に励起している状態を、極めて高い確率で検出できたという。
具体的には、被測定物となる強磁性結晶試料中のキッテルモード中のマグノンと、シリコン基板上の超伝導量子ビットを、マイクロ波の空洞共振器モードを介してコヒーレントに結合し、単一マグノンを検出する。量子ビットの周波数シフトは、キッテルモードと量子ビット間のコヒーレント相互作用によって生じるという。
単一マグノンを検出する手順はこうだ。マグノンが存在しない場合にのみ、量子ビットの状態が励起され、量子ビットとキッテルモード中のマグノンとの間に量子もつれが生じる。この時、量子ビットの状態を読み出すことで、単一マグノンを検出することができるという。今回の実験から、単一マグノン検出の量子効率は71%、暗計数率は0.24という結果を得ることができた。
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