反超放射により、量子ビットの短寿命化を阻止:量子コンピュータに応用可能
東京医科歯科大学と理化学研究所、東京大学らによる研究グループは、制御線に非線形フィルターを強く結合させると、量子干渉効果によって量子ビットの寿命が長くなることを発見した。
制御線に非線形フィルターを強く結合
東京医科歯科大学教養部の越野和樹准教授と理化学研究所創発物性科学研究センターの河野信吾基礎科学特別研究員、東京大学先端科学技術研究センターの中村泰信教授らによる研究グループは2020年1月、制御線に非線形フィルターを強く結合させると、量子干渉効果によって量子ビットの寿命が長くなることを発見したと発表した。
量子コンピュータは、量子ビットの集合体で、多数の量子ビットに対して個別にアクセスする必要がある。このため、制御線と呼ぶマイクロ波照射用の導波路を個々の量子ビットと結合し、そこからゲートパルスを照射する。ところが、制御線と結合することによって自然放出を誘発し、量子ビットの寿命が短くなるという課題があった。
そこで研究グループは、データ量子ビット(DQ)への制御線に、これとは別の非線形フィルター(ジョセフソン量子フィルター:JQF)を結合させ、DQへのゲート操作を解析した。JQFはDQと同じ共鳴周波数を持つ量子ビットで、JQFとDQの間隔を共鳴波長の半分になるよう設定したという。
制御線と強く結合したJQFは、ゲートパルスが照射されていない時、エネルギーが最も低い状態の「基底状態|0>」となる。このため、DQが「励起状態|1>」であっても制御線への自然放出はなくなる。これは、「反超放射」と呼ぶ量子力学的な効果によるものだという。JQFを用いることで、いかなる状態にあっても、DQの劣化を抑えられることが分かった。
一方で、ゲートパルスがJQFに遮断されると、DQへのゲート操作ができなくなるという懸念も生じる。ところが、JQFはパルスと相互作用して吸収飽和を起こし、すぐに「基底状態|0>」と「励起状態|1>」がほぼ半分の状態(混合状態)となり、JQFはマイクロ波を完全に透過させるという。これにより、DQに対して素早いゲート操作が可能となる。
DQに対してノットゲート(量子ビット反転)を繰り返しかける場合に、DQが「励起状態|1>」にある確率も調べた。DQに全く緩和がない場合、励起確率は「0」または「1」の値を交互に繰り返すはずだが、従来方式は時間経過とともにDQが自然放出をして、振動が徐々に鈍った。ここでJQFを用いると、振動の明瞭度が著しく回復することが分かった。
今回の研究成果により、2つの量子ビット(データ量子ビットとジョセフソン量子フィルター)が同じ制御線に結合していても、結合強度に大きな違いがあれば、量子コンピュータに極めて有用であることが明らかとなった。
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