英政府、2023年までにHuawei製品を排除へ:一部容認から一転
英国政府は、2023年までにHuawei製品を電気通信市場から排除する方向に転換していく考えを明らかにした。
英国政府は、2023年までにHuawei製品を電気通信市場から排除する方向に転換していく考えを明らかにした。
英国立サイバーセキュリティセンター(NCSC:United Kingdom National Cyber Security Centre)は2020年5月18日の週に、「米国が最近、中国に対して制裁措置を追加したことを受け、Huawei製品に対するさまざまなリスクについて考慮しながら、さらなる検討を行う予定だ」と発表した。NCSCは、英国の情報機関である政府通信本部(GCHQ:Government Communications Headquarters)の一部門である。
英国政府は声明の中で、「最も重要なのは、英国のネットワークのセキュリティと回復力だ。米国がHuaweiに対して制裁措置を追加したことで、英国内のネットワークにさまざまな影響が及ぶ可能性があるため、NCSCが注意深く検討しているところだ」と述べている。
トランプ政権が、大成功を収めた中国通信インフラメーカーに対して、世界的な半導体供給を禁止する命令を発したことを受け、ここ数週間で英国の両院議員からの圧力が強まってきている。
Huaweiを排除するとなれば、英国政府が2020年2月初めに発表した「Huaweiの5G(第5世代移動通信)参入を一部容認(英国市場におけるHuawei製品の割合に35%という上限を設ける)」としていた政策が完全に覆される他、トランプ大統領がHuawei製品の使用禁止を世界的に働きかけていく上では、大きなプラスとなるだろう。このために英国と中国との関係悪化が深刻化して、BTやVodafone、EE、Threeなどの英国通信事業者に技術的、経済的な大混乱が生じる恐れがある。
どの通信事業者も、5Gをタイムリーに展開していく上で、程度の差はあれHuawei製品に依存している。このため、今何らかの変更が生じれば、さらなる遅延の発生とコスト増加につながっていくのは必至だ。
一方、大手モバイル事業者であるO2(Telefonicaの子会社)は、比較的安全な位置付けを確保できているようだ。同社は長年にわたり、RAN(Radio Access Network)の構築において、EricssonやNokiaへの依存度が高かったためである。最初の措置が覆されるとなれば、この2社の北欧メーカーが主要な受益者となるだろう。
Huawei排除は、オペレーターにとっては非現実的
最大の障壁となっているのは、「オペレーターにとって、相互運用性を確保するためには、同じ通信機器メーカーの4G/5Gインフラ機器を設置することが極めて重要である」という事実だ。既存の機器の大半を排除するとなれば、多くの通信事業者にとっては、膨大なコストと遅延が生じることになる。
BTは2020年1月に、「35%という上限を守るには、5億英ポンド(約660億円)のコストが掛かる見込みだ」と発表している。同社は10年以上前から、モバイルネットワークと光ファイバー拡張の両方におけるインフラ需要の大半を、中国メーカーに依存してきた。
いずれにしても、英国の電気通信市場の多くのメーカーは、2023年までに段階的廃止を完了させるという期限について、「実現不可能ではないにしても、とりわけBTにとっては、あまりにも攻撃的過ぎるのではないか」と考えているようだ。
それを実現するためには、既存のモバイル4Gや既に設置されている5G機器一式を排除するだけでなく、例えばBTの場合、Huawei機器をベースとした数千台規模のFTTC(Fiber To The Curb)やVDSL2キャビネットなどの他、加入者の建物に設置されたフルファイバーの光加入者網終端装置(ONT:Optical Network Terminal)も置き換えることになる。また、技術リソースを転換する必要もあるため、膨大なコストが生じるだけでなく、切望されている新サービスの導入も大幅に遅れるだろう。
NCSCは、英国に対するあらゆる脅威を確実に軽減するという任務を担う技術機関だ。NCSCは2019年末に、Huaweiの技術に関する調査を初めて実施し、「Huaweiのようなリスクが高いメーカーの製品を、コアネットワークをはじめとする、5Gネットワークの機密性が高い部分に採用すべきではない」との結論を発表した。「35%の上限」は、NCSCが報告書の中で推奨した数字だ。
Huaweiは、「近々再検討されるとのうわさが広まる前から、匿名の情報筋による忠告を受けて知ってはいたが、困惑するばかりだった」と強調している。同社のバイスプレジデントを務めるVictor Zhang氏は、「英国政府は2020年1月に、5G導入における当社製品の採用を承認している。英国がネットワークのセキュリティと回復力を高めていくためには、最良の技術と幅広い選択肢、イノベーション、多くのサプライヤーが必要であるためだ」と述べている。
また同氏は、「Huaweiは、NCSCが抱いている懸念について話し合うことにより、過去10年間にわたって築き上げてきた密接な協業関係を維持していきたいと考えている」と述べる。
英国の国家安全保障会議(NSC:National Security Council)は先週(2020年5月18日の週)末に、Huaweiの参加をめぐる措置について再検討するという判断を下しているが、これは、米国がHuaweiに対してさらに厳しい制裁措置を取ることを発表してから、わずか数日後のことだ。
しかしこの背景には、ボリス・ジョンソン英首相が以前に、5Gインフラ事業において中国メーカーが重要な役割を担うことを承認したのに対し、一部の保守党議員が反旗を翻したということもある。この後ジョンソン首相は、Huaweiに対してさらに厳しい措置を講じなければならなくなった。
さらに、英政府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関わる一連の出来事で、中国との関係の見直しも迫られている。多くの英議員は、「中国当局は、武漢でCOVID-19が発生した時点で、世界的な感染拡大を防ぐためのより多くの措置を取れたはずだ」と確信している。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Huawei、英国の5G市場参入が可能になる見込み
現在の中国にとって、英国は、少なくとも2つの点に関して好ましい場所のようだ。1つ目は、Armが認めているように、英国で開発されたアーキテクチャの一部が現行の米国による輸出規制の範囲から外れていることだ。2つ目は、2019年10月の報道によれば、英国がHuaweiに、5G(第5世代移動通信)ネットワーク向けの“議論を引き起こさない部品”の供給を許可する見込みであることだ。 - 5GはHuawei抜きで何とかするしかない 座談会【前編】
終息の糸口が見えない米中貿易戦争。IHSマークイットジャパンのアナリスト5人が、米中貿易戦争がエレクトロニクス/半導体業界にもたらす影響について緊急座談会を行った。座談会前編では、5G(第5世代移動通信)とCMOSイメージセンサーを取り上げる。 - Huaweiの5Gスマホ、HiSiliconの部品のみで5割を構成
テカナリエは、5G(第5世代移動通信)対応スマートフォンを既に10機種ほど入手し、分解を進めている。その中でも注目の1台「Huawei Mate 20 X(5G)」は、HiSiliconの部品のみで約5割が構成されている。 - 日本未発売スマホに搭載されたチップ、「HUAWEI」の刻印から分かること
通常、半導体チップの開発には1年から数年を要する。だが、Appleの「Apple Watch Series 4」や、Huaweiの最新スマートフォンには、わずか1年前に開発されたチップが数多く搭載されているのだ。 - 中国半導体産業、政府の“野心”には追い付けず
数年前に設定された中国の半導体における野心的な技術目標は、達成可能なものというより“願望”だったのだろう。これは、「2030年までにAI(人工知能)技術で世界をリードする」という中国の野望についても言えることだ。 - 中国は先端DRAMを製造できるか? 生殺与奪権を握る米国政府
2019年11月から12月にかけて、中国のメモリ業界に関して、驚くようなニュースが立て続けに報じられている。筆者が驚いた3つのニュース(事件と言ってもよいのではないか)を分析し、今後、中国が先端ロジック半導体や先端DRAMを製造できるか考察してみたい。