東北大ら、深紫外LEDの高速変調メカニズムを解明:ギガビット級光無線通信を実現
東北大学と情報通信研究機構(NICT)および、創光科学は、ギガビット級高速光無線通信を実現した深紫外LEDの高速変調メカニズムを解明した。
微小発光点が多数存在、微小LEDとして振る舞う
東北大学と情報通信研究機構(NICT)および、創光科学は2020年8月、ギガビット級高速光無線通信を実現した深紫外LEDの高速変調メカニズムを解明したと発表した。
今回の研究は、東北大学多元物質科学研究所の小島一信准教授と秩父重英教授が、情報通信研究機構(NICT)の吉田悠来氏や白岩雅輝氏、淡路祥成氏、菅野敦史氏、山本直克氏および、創光科学の長澤陽祐氏、平野光氏、一本松正道氏らと協力して行った。
LEDなど比較的安価な光源を用いた光無線通信システムが注目されている。近年は異なる発光色の微小LEDを用いた波長多重伝送技術により、10Gビット/秒を超える伝送実験も報告されている。一方で、深紫外波長帯(ここでは波長200〜300nmを指す)の光を無線通信に活用する研究も進んでいる。太陽光や照明光に影響されにくく、日中の屋外においても低雑音環境で無線通信を行うことができるからだ。
東北大学とNICT、創光科学はこれまでに、創光科学製の殺菌用深紫外AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)量子井戸LEDを用いて、2Gビット/秒を超える高速光無線通信を室内照明環境で実現。真夏の屋外環境でギガビット級の光無線通信が安定して行えることも実証してきた。ただ、高速通信を可能にするメカニズムまでは解明していなかったという。
そこで今回、高速な光現象を観察できるストリークカメラや、精度が高い深紫外光学顕微鏡を用い、深紫外AlGaN量子井戸LEDの構造や特性などを評価した。この結果、自己組織的に形成された多数の微小発光点が存在していることが分かった。しかも、それぞれが微小LEDとして振る舞い、素子全体の電気容量を実質的に低下させることで深紫外LEDの変調速度が向上し、高速通信につながったとみている。
実験では、LEDにパルス状の電流を加えた。この結果、2〜3×10-9秒程度の短い時間で消灯と点灯が切り替わることが分かった。この値は電極面積から予想される遷移時間より、一桁短いという。
さらに、深紫外波長帯の光学顕微鏡を用いて、LEDが点灯している時の状況を観測した。これにより、量子井戸発光層が全面均一に光るのではなく、約1μmかそれ以下の輝点が多数存在することが明らかとなった。
研究グループは今後、LEDや通信路の改善を行うとともに、より微弱な光を使った深紫外光通信の可能性を検証していく。
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