ADI日本法人の新社長、「今後はスピード感を重視」:中村勝史氏
米Analog Devices(ADI)の日本法人であるアナログ・デバイセズは2020年11月13日、11月1日付で新社長に就任した中村勝史氏の就任記者会見を開催した。
米Analog Devices(ADI)の日本法人であるアナログ・デバイセズは2020年11月13日、11月1日付で新社長に就任した中村勝史氏の就任記者会見を開催した。なお、前社長だった馬渡修氏は11月1日付で会長に就任している。
ADI一筋で、アナログ業界に携わってきた
京都府出身の中村氏は、米国の大学、大学院に進学したのち、1994年にADI米国本社に、コンバーター事業部の設計エンジニアとして入社。組み込み用途向けのCMOSデータコンバーターの初期の技術開発に携わった。
中村氏は「当時のADI本社は、現在の100分の1くらいの小規模なチームだった。だが、最先端のアナログICを開発しているという点に魅力を感じて入社した。ADIのファウンダーらは、CMOSを使ったアナログICを開発しなければならないという強い思いを持っていた。ほんの数人で、CMOSアナログICを開発し始めたのだが、そのチームに私も入っていた」と語る。
その後は、デジタル画像処理用途の製品ライン開発の開発リーダー、コンバーター事業本部コンスーマー統括のプロダクトライン・ディレクター、医療およびコンスーマービジネス本部の技術戦略を主導するCTO(Chief Technology Officer)として、ADI一筋でアナログ技術開発に従事してきた。もともとB to B(Business to Business)で事業を行ってきたADIは1990年代にB to C(Business to Consumer)に舵を切り、そこから大きく成長することになるのだが、その90年代の急成長を経験した1人でもある。
2019年には、当時アナログ・デバイセズの社長だった馬渡氏に声をかけられる形で、同社のシニアディレクターも兼任し、産業・医療・通信セールス本部を統括し、11月1日に社長に就任することとなった。
巣ごもりでコンスーマー事業が成長
中村氏は、ADIの事業の柱として、5G(第5世代移動通信)、産業オートメーション、オートモーティブ、ヘルスケアを挙げた。
産業オートメーションについては「ADIでは、世界でも日本でも売上高の半分以上が産業用。ADIにとってベースとなる事業であり、顧客数、製品ポートフォリオともに最も多い分野」と語った。「日本のオートメーション技術は海外で使われるようになっている。2020年4月になって、中国が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からいち早く回復したこともあり、ADIの事業でいうと、前年比増になっているくらい成長している分野でもある」(中村氏)
オートモーティブについては、同じくCOVID-19によって自動車市場が大きな打撃を受けるも、「この2〜3カ月で急速に回復している。産業分野同様、中国が早いタイミングで回復しているからだ。電動化もますます加速している」と中村氏は述べる。
ヘルスケアでは、近年、医療業界においてPOCT(Point of Care Testing)*)への注目が高まっている背景から、製品の提供先が、大型診断装置だけでなくPOCT用のポータブル診断機器などにも広がり、出荷数が増加しているという。「COVID-19に関しては、人工呼吸器に必要な部品を優先的に提供するなど、われわれにできる形で貢献した」(中村氏)
*)検査室ではなく、ポータブル型診断機器などを用いて、自宅なども含め被検者、患者の傍らでリアルタイムで行う検査(参考:Ignazzo)。
売上高に関しては、最も低い割合を占めているコンスーマー分野が、ステイホームなどの影響で伸びた。2020年度第1四半期(2019年11月〜2020年1月)、第2四半期(2020年2〜4月)は前年比で大きく落ち込んだものの、第3四半期(2020年5〜7月)には需要が増えたことに伴い、出荷数も増加し、「前年比でほぼフラットになるまで戻ってきた」(中村氏)。なお、第4四半期(2020年8〜10月)および2020年度通期の業績は、間もなく発表される予定だ。
スピード感とグローバル展開が課題
中村氏は、「ADIは技術がうりの会社。最先端の技術をどう提供していくかが常に重要になる。実用化や開発についても、これまで以上に速いペースが求められるが、それを達成するにはアナログ・デバイセズとして技術のサポートのレベルを上げなくてはいけないと考えている」と語る。
「日本は新しい技術をいち早く取り入れる“トレンドセッター”の国だ。日本はモノづくりに強く、品質が非常に高いものを開発するが、それを実際の製品やシステムに取り込むという意味ではやはり中国などが速い。日本が数年かけて新しい技術を熟成していくところを、中国は1年で行ってしまうというくらい、ペースが違う。今後はこのスピード感が課題になる。アナログ・デバイセズだけでなく、当社の顧客企業も巻き込んで、素早くグローバルに展開していくことが重要だ」(中村氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 米ADIで働く日本人技術者に聞く、オペアンプの地道な進化
AI(人工知能)や5G(第5世代移動通信)といったトレンドに後押しされ、技術の進化や競争の激化が著しいデジタルICの分野に比べ、アナログICは比較的ゆっくりと、だが着実に成長を続けている分野だ。ここ数年で、アナログ技術にはどのような進化があったのか。Analog Devices(ADI) でシニアスタッフデザインエンジニアを務める楠田義憲氏に、オペアンプの技術動向や、旧Linear Technologyとの合併後の開発体制などを聞いた。 - 日本の半導体業界にとって“好ましいM&A”を考える
日本の半導体メーカーにとって好ましいM&Aとはどのようなものか。事業規模/内容で国内半導体メーカーをいくつかのグループに区分し、それぞれに適したM&Aを考えていく。 - Maximの買収、ADIの追い風に?
Analog Devices(アナログ・デバイセズ/ADI)のプレジデント兼CEOを務めるVincent Roche氏は2019年5月に、投資家たちに向けて、「ADIに追い風が吹いている」と語っていた。同氏はこの時、最終的にADIが2020年7月13日(米国時間)にMaxim Integrated Products(以下、Maxim)の買収を発表するに至ったさまざまな出来事について、微妙に言及していたのかもしれない。 - 2019年のアナログIC売上高、上位9社が前年比減に
IC Insightsは2020年5月28日(米国時間)、2019年のアナログIC売上高ランキングを発表した。それによると、2019年のアナログICの世界市場は552億米ドルで、そのうち上位10社が62%(342億米ドル)を占めるという。10社のうち9社は、アナログIC売上高が2018年に比べるとマイナスになっている。 - ADI、振動計測や侵入検知を具体的事例で紹介
アナログ・デバイセズ(ADI)は、「第8回 IoT/M2M展 春」で、MEMS加速度センサーを応用した「振動計測レファレンスソリューション」など、ユーザー事例を含む最新ソリューションのデモ展示を行った。