半導体市況分析手法を新型コロナ感染動向の分析に応用してみた:大山聡の業界スコープ(37)(3/3 ページ)
2020年も年末に差し掛かったこの時期、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大し始めている。厚生労働省から発表される数字を見ていると、数字の動向に何らかの傾向があるように思えた。そこで、半導体市況の分析手法を使ってCOVID-19感染動向の数字を分析してみた。
どうなる? 第1波、第2波の傾向から第3波を読む
そして、第3波(現在)の感染者数と感染の増減をグラフ化したのが下図である。8月、9月の動向はすでに述べた通りで、10月も大きな悪化は見られなかったが、11月に入ると増減率も新規感染者数も一気に上昇し、増減率は60%超、新規感染者は2000人を超えてしまった。11月も後半になると増減率は減少しているものの、新規感染者は2000人を超えたままの状態が続いている。そして12月に突入したわけだが、例年であれば忘年会シーズンにあたる今どき、飲食店への時短要請だけで果たして年末を乗り切れるだろうか。このグラフでいえば、12月は新規感染者が2000人を切って1000人程度まで減少すること、そのためには増減率も前週比で20%程度下回るような動向で推移してもらいたいところである。
8〜11月について、新規感染者数と陽性率をグラフ化してみると(下図)、8月、9月の動向はすでに述べた通りで、10月も大きな悪化は見られなかったが、11月に入ると陽性率が再び上昇している。第2波の時と同様、7%を下回って推移している点は幸いだが、12月は8月、9月の上をなぞるような動向で推移してもらいたいものである。前週比で20%下回る増減率であれば、12月末には新規感染者が1000人を下回る計算になる。陽性率も3%前後にまで減少していれば、これまでの傾向から考えて、急速な感染拡大を心配する必要はなさそうに思える。
ここで問題なのは、ウイルスが拡散しやすい冬場、しかも忘年会シーズンの12月において、感染者数の半減(2000人から1000人へ)、陽性率の半減(6%台から3%台へ)をどうやって実現するか、である。新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂氏は現在の感染状況について、「人々の個人の努力だけに頼るステージはもう過ぎた状況」とコメントしている。公表されている数字をグラフ化して分析してみると、このコメントに極めて強い説得力を感じる。
明確化してほしい「感染者を減らすための施策」
統計数値のパターンを分析する手法は、半導体市況の分析時によく使われるため、専門外ではあるが、新型コロナウイルスの感染拡大の分析を行ってみた。実は、これは筆者の知人による発案で、「ひょっとしたら目指すべき指標が見えるかもしれない」と思って手掛けたのが経緯だが、それなりの意味はあったと自負している。政治的なコメントを発することも本意ではないが、今回に限って日本政府に対しては、国民の努力に頼るだけでなく、飲食店に対して3週間の時短要請をする同期間に「新規感染者を半減させる施策」について、明確な方針を示していただきたいと考えている。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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