理研ら、新たな「スピン流−電流変換現象」を発見:スピン流を電流の渦に変換
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、独自に開発した数値シミュレーション法を用い、スピン流を電流の渦に変換する、新たな「スピン流−電流変換現象」を発見した。
独自開発の数値シミュレーション法を活用
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは2021年4月、独自に開発した数値シミュレーション法を用い、スピン流を電流の渦に変換する、新たな「スピン流−電流変換現象」を発見したと発表した。
新たに開発したシミュレーション法ではまず、量子スピン鎖に結合している2次元電子系に対し、「ブロックランチョス法」と呼ばれる基底変換(座標変換)を利用する。この方法を用い、接合している2次元電子系の中から、時間発展に寄与する必要最低限の基底を抽出し、有効な1次元模型を導き出す。これによって、「密度行列繰り込み群法」を適用した高精度の大規模数値計算が可能となり、電流渦のような電子の動きを捉えることができたという。
この手法を電子系と量子スピン鎖の接合系に応用した。シミュレーションでは、自由電子系に磁場を加えて量子スピン鎖にスピン流を発生させた。これを量子スピン鎖の先端から、ラシュバ型スピン軌道相互作用のある2次元電子系に注入した。
この過程を実時間で詳細に調べた。この結果、2次元電子系内には量子スピン鎖の接合点から同心円上に、電流の渦が発生することが分かった。電流の渦は時間とともに中心から広がった。しかも、渦の流れは、中心からの距離に依存して右回りや左回りに変化する様子も確認できたという。
この結果は、これまで知られている現象とは対照的なもので、それには「注入されたスピン流のスピン分極の違いが関係している」と分析する。従来の研究では、注入されるスピン流のスピン分極が、2次元電子系の「面内」に分極していた。これに対し今回は、スピン流のスピン分極が2次元電子系と「垂直」に分極していることで、違いが生じているという。
今回の成果について研究グループは、「スピン流として流れ込んだスピン角運動量が、電子の回転角運動量に変換された過程を実証したことになる」とみている。しかも、量子スピン鎖では電荷の自由度が凍結しており、「純粋なスピン流が電流の渦という電荷自由度へ変換されたことを実証したことになる」という。
今回の研究は、理研創発物性科学研究センター計算量子物性研究チームの前川禎通上級研究員と柚木清司チームリーダー(計算科学研究センター量子系物質科学研究チームチームリーダー、開拓研究本部柚木計算物性物理研究室主任研究員)、中国科学院大学カブリ理論科学研究所の藤本純治研究員および、グライフスヴァルト大学の江島聡研究員(同柚木計算物性物理研究室客員研究員)とホルガー・フェスケ教授らが共同で行った。
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