Apple、Samsung、Huawei――出そろった5nmチップを比較する:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(52)(3/3 ページ)
Apple「iPhone 12」シリーズを皮切りに、ハイエンドスマートフォン市場では5nmプロセスを適用したプロセッサを搭載したモデルが続々と投入されている。一通り出そろった5nmチップを比較してみよう。
SnapdragonとExynosの面積比
図4は過去7年のQualcomm SnapdragonとSamsung Exynosの面積をグラフにしたものである。Snapdragon(SDと表記)は水色、Exynos(Eと表記)はオレンジ色とした。
2社は、同じ年において同じプロセスを必ずしも用いているわけではない。一番左の「Snapdragon 810」は20nmを用いているが、同年の「Exynos 7420」は14nm。製造プロセスが異なるので面積は大きく異なっており、Snapdragon 810がExynos 7420よりも1.7倍ほど大きなものになっている。
常に最先端の仕様を実現してきたQualcommにとって、この大差は衝撃となった。プロセスを微細化すると電圧を下げることができ、チップ面積を小型化でき、結果として低消費電力を実現しやすい。20nmを選択したことで、同年に14nmを実用化したSamsungにさまざまな面で後れを取ってしまったのである。
しかしそれ以降、Qualcommは執念を持って常にSamsungのExynosよりも面積が小さいチップを作り続けている。機能を落とすのではなく、隙間のほとんどない高いインプリメント、ソフトウェアとハードウェアの協調設計をより強化させているのだ。
2021年、Samsungの5nmプロセスを活用した大型プロセッサも出そろった。TSMCの5nmと合わせて、5nmプロセスがモバイルではメインとなった。TSMCとSamsungのどちらが優れているか、どちらが高速か、どちらが小さいかなど弊社には数多くの問い合わせがある。
TSMCの5nmチップとSamsungの5nmチップを比較する
図5は、TSMCの5nmプロセスで製造されるHuawei/HiSiliconのKirin 9000と、Samsungの5nmで製造されるExynos 2100の比較である。弊社では0.01mm単位で測長を行っている。
通常、同じもの同士を比較することは難しい。しかし両プロセッサは同じ仕様の演算器を搭載している。GPUがともにArm「Mali G78」だ。Samsungは14コア、HiSiliconは24コアと、搭載するコア数は異なっているが、1コアの“単位”は同じである。1コアの面積を求めて比較すれば、TSMC 5nmを用いたチップとSamsung 5nmを用いたチップの面積差が求まるわけだ。同様に、CPUコアでも、ともに4コアのArm「Cortex-A55」を搭載しているので、A55の1コアの差も求めた。弊社では周波数性能、面積比などについてTSMC製とSamsung製の差を算出し、テカナリエレポートで公表済している。
2021年はさらに5nmプロセスや6nmプロセスを適用した製品も続々とリリースされる。今後もチップ開封を基本に置き、エビデンスのある比較を行っていく。
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