「iMac」の分解に見る、Appleの“半導体スケーラブル戦略”:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(53)(3/3 ページ)
Appleの新製品群「AirTag」や「iMac」、新旧世代の「iPad Pro」などのチップを分析すると、Appleが、自社開発の半導体をうまく“横展開”していることが見えてくる。
新旧「iPad Pro」のメインプロセッサを比較する
図6は、2021年5月21日に発売された新型「iPad Pro」と、2020年3月に発売された前世代のiPad Proの様子である。
両機種とも3D(3次元) LiDARスキャナーを搭載している。内部の構成はほぼ同じだが、プロセッサが入れ替わっている。2020年モデルは、iPhoneで活用されるAシリーズ(例えば「iPhone XS」の「A12」プロセッサ)のGPUコア数を増やした「A12Z BIONIC」(以下、A12Z)がメインプロセッサとなっている。一方の2021年モデルでは、プロセッサが2020年のMacBook Pro/MacBook Air、2021年のiMacに搭載されているM1に置き換わった。M1とA12Zはパッケージサイズが若干異なっている(M1の方が大きい)がほぼ同サイズである。プロセッサだけでなく、組み合わされる電源ICもAシリーズからM1専用のものに置き換わっているが、それ以外のチップはほぼ同じである。
A12Zは6コアCPU、8コアGPUを7nmプロセスで製造する。M1は5nmで製造され、8コアCPU、8コアGPUという構成だ。弊社テカナリエは、ともに内部機能が詳細に分かるチップ写真を撮影して所有しているので、必要な方はぜひお問い合わせいただきたい。ハードウェアという点でAppleはいよいよPCとタブレットが同じプロセッサとなった。ハードウェアプラットフォームの一元化が進んだわけだ。M1とスマートフォンに活用されるAシリーズの違いは、主にCPU、GPUのコア数だけなので、Appleの半導体のスケーラブル戦略は着々と実現されているのである。
表1は、現在までにApple M1が搭載されている製品の一覧である。表上段には分解過程の内部全貌、下段にはそれぞれのM1のパッケージを掲載した。
チップの構成は全て同じで、パッケージ左側にリッドに覆われたプロセッサ、右側にはDRAMが搭載されている。DRAMは8GB、16GBを選択できる。プロセッサは出来上がったシリコンの選別によって、動作するコア数が8個のもの、7個のものなどが存在し(1コアを無効にしたものを7コア版として販売するのだ。非常にしたたかである……!)、同じように見えるパッケージでも、組み合わせるDRAMの容量、シリコンの差(周波数やコア数)によって、Apple独自のチップネームは別物になっている。例えばM1はいわばニックネームで、“本名”は表にも示した「339S008XX」だ。
2021年から2022年にかけて、Appleは間違いなく次のプロセッサ、プラットフォームを発売する。「A15」や「M2」(仮称)などである。弊社は今後もApple製品を網羅的に観察、解析していく(Apple製品だけでなくあらゆる半導体を搭載した製品と半導体そのものを誠心誠意、熱意を込めて分解、解析する所存だ)。
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