自動車の“HPC化”が進む、TSMC:車載向け5nmプロセスを紹介
TSMCは2021年6月2日(台湾時間)、自社イベントの「2021 Virtual Technology Symposium」で、5nmプロセスノードの新しいファミリーとなる「N5A」について言及した。N5Aは、「AI(人工知能)対応の運転補助や運転席のデジタル化など、より進化した密度の高い自動車アプリケーションにおける、演算性能への高まる需要を満たすことを目指したものである」だという。
自動車向けの「N5A」プロセス
TSMCは2021年6月2日(台湾時間)、自社イベントの「2021 Virtual Technology Symposium」で、5nmプロセスノードの新しいファミリーとなる「N5A」について言及した。N5Aは、「AI(人工知能)対応の運転補助や運転席のデジタル化など、より進化した密度の高い自動車アプリケーションにおける、演算性能への高まる需要を満たすことを目指したものである」だという。
TSMCのグローバルマーケティング部門を率いるGodfrey Cheng氏は、ブログで「TSMCのAutomotive Service Packageを搭載した技術『N7』と比べ、N5Aの性能は最大20%、電力効率は最大40%、ロジック密度は最大80%向上する」と述べた。
複数の自動運転車が登場した約10年前、多くの人を驚かせたのは、それらのトランクに“小型のデータセンター”に相当するシステムが搭載されていたことだ。以来、自動車メーカーとサプライヤーは、自律走行をサポートするのに十分な演算能力を明らかにしようとしてきたが、実はその能力は、小型のデータセンターよりも大幅に少ないものだった。それから10年近くが経過した今、自動車にスーパーコンピュータを搭載できるようならば、それを検討してもいいくらいではないだろうか。
米国EE Timesは、Technology Symposiumの開催中に、TSMCのビジネス開発担当シニアバイスプレジデントであるKevin Zhang氏と1対1のインタビューを行った。短い取材の中で、EE TimesはTSMCの自動車向け事業について尋ねた。Zhang氏は、TSMCは高性能コンピュータ(HPC)に対する自動車メーカーからの需要を理解していると述べた。自動車メーカーは、より微細なプロセスノードで実現できるHPCに関連した性能や電力効率、ロジック密度を求めているという。
TSMCは、そうした性能は「AEC-Q100 Grade2の厳しい品質要件と信頼性要件、その他の自動車安全/品質基準とのバランスを保たなければならない」と述べた。
そうした要件を現時点で満たしている車載半導体は、40nmや28nmといった、いわゆるレガシーノードで製造されているものが多く、TSMCの最先端製品の“ホームグラウンド”ともいえる7nmや5nm、今後早い時期に登場予定の3nmとは程遠い。
Zhang氏によると、自動車市場がTSMCの事業全体のおよそ4%を占めるにとどまる理由の一つはそこにあるという。一方でZhang氏は、TSMCが現在製造しているメモリ組み込み型のマイクロコントローラーの大半は車載用であるとも述べた。
だがZhang氏によると、一部の自動車メーカーは現在、自律走行をサポートできるよう、自動車のHPC化を模索しているという。クラウドでも多くの処理は可能だが、クルマが一瞬で判断しなければならない場合には、エッジでの高性能、高効率な処理が必要になる。
Zhang氏は、「これは、将来の自律走行の能力の重要な要素になるだろう」と付け加える。
TSMCの顧客の間では、より多くのインテリジェンスをエッジ(ここでは自動車そのもの)に求める声が高まっている。ただし、それがどのような形で実現されるかについては合意が得られていないようだ。Zhang氏は、従来のプロセッサを使用する顧客、ASICを求める顧客、その他のアプローチをとる顧客など、顧客によってエッジでのAIサポートのアプローチが異なると語った。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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