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サブナノメートル時代を見据える2次元(2D)材料のトランジスタ福田昭のデバイス通信(316) imecが語る3nm以降のCMOS技術(19)

「IEDM2020」の講演内容を紹介するシリーズ。今回から、「さらにその先を担うトランジスタ技術(ポストシリコン材料)」の講演部分を解説する。

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次々世代のトランジスタ「CFET」がシリコンの限界点となる

 半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」は、「チュートリアル(Tutorials)」と呼ぶ技術講座を本会議(技術講演会)とは別に、プレイベントとして開催してきた。2020年12月に開催されたIEDM(Covid-19の世界的な流行によってバーチャルイベントとして開催)、通称「IEDM2020」では、合計で6本のチュートリアル講演が実施された。その中で「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials(CMOSを3nm以下に微細化する要素技術-デバイスアーキテクチャと寄生素子、材料)」が非常に興味深かった。講演者は研究開発機関のimecでTechnology Solutions and Enablement担当バイスプレジデントをつとめるMyung‐Hee Na氏である。

 そこで本講座の概要を本コラムの第298回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。


チュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials(CMOSを3nm以下に微細化する要素技術-デバイスアーキテクチャと寄生素子、材料)」のアウトライン。講演スライド全体から筆者が作成したもの。今回から、「さらにその先を担うトランジスタ技術(ポストシリコン材料)」の講演パートを紹介する(クリックで拡大)

 本シリーズの第11回から第18回までは3番目のパートである「FinFETの「次の次」に来るトランジスタ技術(コンプリメンタリFET)」の講演部分を説明してきた。今回から、4番目のパートである「さらにその先を担うトランジスタ技術(ポストシリコン材料)」の講演部分を簡単に記述していく。

 これまで説明してきたように、CMOSロジックを構成するトランジスタ技術は将来も、シリコン(Si)半導体をベースに進化していく。FinFETの「次の次」に来ると期待される次々世代トランジスタ技術「コンプリメンタリFET(C(Complementary)FET)」も、基本的にはシリコンを使う。その先はどうなるのか。シリコンのチャンネルを微細化すると問題となる「短チャンネル効果」と、シリコンのチャンネルを薄くしたときに懸念される「キャリア移動度の低下」の両方を解決する手法が欲しい。


CMOSロジック用トランジスタ技術の将来ロードマップ。出典:imec(IEDM2020のチュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials」の配布資料) (クリックで拡大)

 解決策の候補が、シリコン以外の材料をチャンネルに採用することだ。例えば前回で述べたように、シーケンシャルCFETのチャンネル材料を移動度の高いゲルマニウム(Ge)あるいは窒化ガリウム(GaN)に変更する。

 もう1つの候補が、チャンネルに2次元(2D)材料を選択することだ。2次元(2D)材料は、厚みが原子層の1層あるいは数層と薄い。原理的には微細化しても短チャンネル効果が起きにくい。また理論的にはキャリアの移動度が、かなり高い。サブナノメートル(Sub-nm)の技術世代を見据えたトランジスタの候補と考えられている。

2次元(2D)材料では短チャンネル効果が起きない

 2次元(2D)材料の代表的な候補は、遷移金属(Transition Metal)とカルコゲナイド(Chalcogenide)の化合物である「遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)」だ。1個の金属(M)原子と2個のカルコゲナイド(X)原子で構成されるので、一般的な組成は「MX2」となる。トランジスタ応用が期待される材料は、タングステン(W)やモリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)などの遷移金属と、硫黄(S)やセレン(Se)などのカルコゲナイドを組み合わせたTMDである。層状の物質であることと、エネルギーバンドにギャップを生じる(半導体である)ことが大きな理由だ。

 MOSFETのゲート長は、理論的にはチャンネルの厚みとチャンネル材料の比誘電率によって決まる。厚みが薄く、比誘電率が低いほど、理論的なゲート長は短い。例えば二流化タングステン(WS2)と二流化モリブデン(MoS2)の比誘電率は、シリコンの半分以下と低い。


2次元(2D)材料「遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)」の構造(左)と比誘電率(右)。出典:imec(IEDM2020のチュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials」の配布資料) (クリックで拡大)

 講演では、3nm世代のシリコンFinFETと二流化タングステン(WS2)のトランジスタでドレイン電流とチャンネル長の関係を比較していた。チャンネル長が10nm以下の領域では、FinFETは短チャンネル効果が強く生じた。WS2のトランジスタでは、10nm以下のチャンネル長でも短チャンネル効果は生じなかった。

次回に続く

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