英当局、「NVIDIAのArm買収は技術革新を阻害する」との見解を発表:慎重な調査が必要との結論(2/2 ページ)
英国の競争・市場庁(CMA:Competition and Markets Authority)は、NVIDIAによるArm買収に関する報告書をまとめ、「競争上の懸念の他、技術イノベーションが阻害される可能性もあるため、詳細な調査を行う必要がある」との見解を明らかにした。
顧客や競合企業の懸念
報告書では競争上の懸念について、「データセンター技術に関連性があるもの」「自動車やゲーム、IoTに関連性があるもの」の2つのカテゴリーに分類している。
Armは、データセンター向けCPU IPや、SmartNIC、ネットワークインタフェースコントローラーの供給において市場支配力を有している。コメント欄には、ArmがCPU IPの主要サプライヤーである理由として、技術的な成熟度、ソフトウェアエコシステムの強さ、そしてIPビジネスモデル特有の“オープンな”性質が挙げられている。
さらに、IntelやAMDが活用しているx86アーキテクチャにアクセスできないデータセンターサプライヤーにとっても、ArmのチップIPは重要だ。これには、データセンター用CPU市場の成長をけん引するクラウドサービスプロバイダーも含まれる。近年、Armベースのデータセンター向けCPUの売り上げは急速に伸びていて、x86ベースのデータセンター用CPUの売り上げにプレッシャーをかけている。
一方で、同報告書は、RISC-VやMIPSなど他のIPへの切り替えには大きな障壁があることも明らかになったとする。さらに、NVIDIAによるArm買収は、ArmのビジネスモデルをNVIDIAに有利なものへと変え、特にデータセンター用CPUおよびSmartNIC市場で(NVIDIAが)今後急激に成長する要因にもなると指摘している。
CMAは、IoTや自動車、ゲームアプリケーション向けのSoCを手掛けるサプライヤーから、Arm IPへのアクセスが制限される可能性に関する詳細なコメントを相当数受け取ったことを明かした。CMAは、こうした懸念が現実のものとなれば、上記の市場における競争が大幅に減少すると結論付けている。
報告書が発表される前に、ArmからスピンアウトしたAcorn Computersの創業者であるHermann Hauser氏は、NVIDIAによるArmの買収は米国の独占を生むと主張していた。同氏はCambridge Independentによるインタビューで、「NVIDIAによるArmの買収は、GoogleやFacebookなどのように、今度はマイクロプロセッサで米国の独占を生み出すことになり、最悪の事態となるだろう」と述べている。さらに、「Armの中立性とオープンなビジネスモデルを維持する」というNVIDIAの言葉に動じず、NVIDIAが表明した、英国ケンブリッジのAIセンターへの投資についても疑問を呈している。Hauser氏は「NVIDIAが400億米ドルの取引を成立させるためにケンブリッジにばらまこうとしている資金に目がくらんではならない」と主張した。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 半導体業界に巨大M&Aの波が再来 ―― 電子版2020年10月号
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版2020年10月号。今号のEE Exclusive(電子版限定先行公開記事)では、昨今の半導体業界のM&A動向をまとめた「半導体業界に巨大M&Aの波が再来」をお送りする。 - NVIDIAの時価総額がIntelを上回る
NVIDIAの時価総額が、Intelを初めて大きく上回り、2510億米ドルに達した。NVIDIAの株価は記事執筆時点で420米ドル前後の高値をつけ、会計年度の初めから現在まで79%成長している。 - スパコン「富岳」が3期連続で4冠達成
富士通は2021年6月29日、同社と理化学研究所(理研)が共同開発したスーパーコンピュータ(スパコン)「富岳」が、世界のスパコン関連ランキングにおいて、「TOP500」「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」「HPL-AI」「Graph500」の全てのベンチマークにおいて第1位を獲得したと発表した。 - 暗号通貨のマイニングも半導体不足の一因
機器メーカー各社はパンデミックのさなかに、半導体チップが不足するという問題に直面しながらも、「やがて全てが落ち着けば回復するだろう」と楽観視していた。しかし、材料不足が原因でサプライヤーからの出荷が低迷したために、何とか製品を市場に投入すべく、自社の古い在庫を消費した。だが今になっても、新たに半導体チップが追加される兆しは見えない。 - IntelがSiFiveに20億ドルで買収提案か
Intelが、SiFiveを20億米ドルで検討する初期段階にあると報じられた。SiFiveはRISC-VベースのプロセッサコアのIP(Intellectual Property)を手掛けている。 - Intel元社長が創設したAmpere、順調に成長
Ampere Computing(以下、Ampere)は順調に成長を続けている。2020年に発売した80コアプロセッサ「Altra」は順調に顧客を獲得しており、同社はそのうち数社をついに公表した。128コアの「Altra Max」は現在サンプル出荷中で、Ampereが公言していた通りの処理速度を実現している。