STEMを取り入れた「夏休みの自由研究」型パッケージ教育のすすめ:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(15)STEM教育(3)(1/8 ページ)
今回は、STEMを取り入れた新しい教育を提案します。併せて、プログラミング教育×STEM教育の方程式から導き出せる、「理系日本人補完計画」という壮大な妄想(?)を語ってみます。
「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー
「夏休みの自由研究」の恐怖
子どもの頃の私は、「夏休みの自由研究」というものに困ったことがありませんでした。好きでした。ワクワクしていました。数に制限がなければ、多分、ひと夏で3本くらいはいけたんじゃないだろうか、と思います。
ええ、分かっています。この冒頭のフレーズだけで、このコラムを読んで頂いている多くの保護者の方と、そして子どもたちを一気に敵に回したことは、十分に認識しています。
「夏休みの自由研究」 ―― この課題が、どれだけの子どもの夏休みの日々に暗い影を落しているのかを私は、よく知っています。最初に知ったのは、数年前、お隣りの国韓国で、保護者が、大学生アルバイトを使って「夏休みの自由研究」の外注を行っていることが社会問題になっている、というニュースを見たときです。
その時は、『ふーん』くらいの感想しか持ち合わせていませんでしたが、その後、調べてみたら、我が国にも、この外注サービスを利用する保護者が(少なくとも3桁以上)いることが分かっており、そして、8月下旬になると、必ずこの話題のニュースが取り扱われていることに気が付きました。
どうやら我が国では、この「夏休みの自由研究」において、保護者は『共同研究者』である、と思われているフシがあるようなのです。
こちらの論文「小学生の保護者が子供の夏休みの自由研究に抱える不安」によれば、保護者の9割が夏休みの自由研究に「不安あり」と答えているようです。その中でも、「親がどういうサポートをしたらよいか」(22.8%)、「学年にふさわしい出来栄えかどうか」(12.9%)と考えているからです。そして、子どもの方も、保護者のサポートは当然である、と考えている様に見られます。
私を除く江端家におけるインタビュー結果は、おおむね、この論文の内容と同じでした。私を除く全員が「夏休みの自由研究は、宿題だから仕方なくやった」といい、嫁さんに至っては「親のサポートは折り込み済み」と、言い切りました。
ただ、江端家の場合は、ちょっとケースが特殊でして、安易に父親(私)に相談すると、『父親が勝手に暴走しかねない』 ―― 自分の娘の年齢や実力と似(そぐ)わない、研究レポートを勝手に完成させてかねない ―― ので、娘の方で、父親の「利用方法」を考えていたようでした。
この「暴走」の例としては、例えば ―― 10年前に、娘(中学1年生)の文化祭で展示されていた自由研究の中に『声紋分析に関する個人差の調査』なる、そのレポートの中には、特殊な専用装置で測定されたとしか思えない声紋のハードコピーが張ってありました。
中学1年生の研究が「声紋分析」とは…… ―― 『うん、この子の親、「親バカ」というより「バカ親」だ』と思ったことを、今でも覚えています。
それはさておき。
「夏休みの自由研究に、保護者のサポートは当然である」が当然であるかどうかはさておき、自由研究をサポートする側の保護者には、子供の要求に答えられるだけの理系の知識やスキルを持ち合わせていることが前提となります。
また、仮にそのような知識がなくとも、日本であれば、このような子どもの自由研究をサポートする書籍はあるんじゃないかな、と、図書館やAmazonで調べてみたら ―― 出るわ出るわ、宝の山状態です。これだけの資料があれば、「外注」なんぞ必要ないように思われます。
しかし、保護者は、子供の研究のサポートができるという自信は備わっていないようです。仮に研究ネタがあったとしても、「実際に実験をする」ことは、さらに何段もフェーズが高くなりますし、これを、研究報告とするなら、それなりの纏め方(背景と動機→課題→課題を解決するアプローチ→実験→実験データの集計→考察)を知っている必要もあります ―― うん、確かに面倒くさい。私でも「外注」に丸投げしたい、と思うかもしれません。
加えて、夏休みの自由研究をサポートする保護者は、主に母親であり、その母親は文系出身者が多いということも問題であるようです*)。
*)ちなみに、嫁さんに「なぜ"母親"はそんなに子どもの宿題を気にするのか?」と尋ねてみたら、『うーん、コミュニケーション時間とか、距離感が作りだす、"共感度"が、父親より大きいのかもしれないなぁ』と言っていました。
女性の理系比率が低いことはご存じの通りですが、そもそも、我が国では、科学の基礎的概念の理解度が欧米諸国と比較して低いレベルにあることが、データで客観的に示されています*)。
いずれにしても、「夏休みの自由研究」が、これからも子どもと保護者の両方を、虐待し続けることは、確定的なようです。
こんにちは。江端智一です。
今回は、「踊るバズワード 〜Behind the Buzzword」のシリーズ「STEM教育」の3回目です。
前回に引き続き、「プログラミング教育」と「STEM教育」についてお話していきたいと思いますが、今回はこのバラバラの2つの教育方針として見るのではなく、これを一つの連携システムとして考えてみたいと思っています。
そして、実は文部科学省の官僚の皆さんが、あの経済産業省の「太平洋ベルト地帯構想」や、旧通産省(現経済産業省)の「国産コンピュータ保護政策」にも匹敵する、すごいこと ―― 『理系日本人補完計画』 を考えているという、私の壮大な妄想を書きつづってみたいと思います。
ただ、この妄想、私の中では、それなりに根拠はあります。今回は、この話をします。
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