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酸化物系全固体電池向けの高容量正極と負極を開発安全性を大幅に向上

産業技術総合研究所(産総研)は、酸化物系全固体電池に向けた高容量正極と負極を新たに開発した。エネルギー密度が高く、安全な酸化物系全固体リチウム硫黄電池の早期実用化が期待される。

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室温環境で実用レベルのエネルギー密度を実証

 産業技術総合研究所(産総研)先進コーティング技術研究センターエネルギー応用材料研究チームの永田裕主任研究員と秋本順二首席研究員兼チーム長は2021年11月、酸化物系全固体電池に向けた高容量正極と負極を新たに開発したと発表した。エネルギー密度が高く、安全な酸化物系全固体リチウム硫黄電池の早期実用化が期待される。

 次世代電池として注目される全固体リチウムイオン電池は、複合正極層/隔離層/複合負極層の3層で構成される。特に、複合正極層中の活物質に硫黄を用いた全固体リチウム硫黄電池は、従来品に比べエネルギー密度を大幅に向上できる可能性がある。

 ただ、全固体リチウム硫黄電池には課題もある。正極・負極の活物質の組み合わせによっては、短絡の可能性がある。そこで注目されているのが、正・負極活物質にそれぞれLi2SとSiを用いた系である。

 正・負極内および隔離層に使用される固体電解質材料も、より安定した酸化物系固体電解質材料に置き換えることが求められている。しかし、室温で実用的な充放電を行うには、正・負極内の構造を見直す必要があった。


全固体リチウムイオン電池の概略図 出所:産総研

 産総研はこれまで、全固体リチウム硫黄電池の研究を行ってきた。近年は、メカニカルミリング手法を活用した固体電解質材料合成と、正・負極合材の開発に取り組んでいる。この中で、正・負極活物質をそれぞれLi2SとSiに置き換え、これらに固体電解質材料を複合化した全固体リチウム硫黄電池用電極の研究に取り組んできた。

 これらの研究成果により、酸化物系固体電解質「Li2SO4-Li2CO3-LiX」が、高い変形性と比較的高いイオン伝導性を示すことが分かった。この材料と複合化したLi2S複合正極および、Si複合負極を組み合わせた全固体リチウム硫黄電池を試作。フルセル試験において45℃で比較的高いエネルギー密度が得られることを示した。


産総研における酸化物系全固体リチウム硫黄電池研究 出所:産総研

 全固体リチウムイオン電池は、「活物質粒子−固体電解質粒子間の接点」や「固体電解質粒子間の接点形成」が、エネルギー密度に大きく影響するという。Li2SとSiは、従来のLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2やグラファイトに比べ、結晶構造が壊れても充放電特性が低下しない。また、硬い酸化物系固体電解質材料を、メカニカルミリング手法で合成された高変形性酸化物系固体電解質材料に置き換えることで、粒子間接点を大幅に増やすことができるという。


高変形性固体電解質材料による粒子間接触の改善イメージ図 出所:産総研

 研究チームは今回、Li2O-LiIガラスの原料(Li2OとLiI)と電極活物質(正極はLi2S、負極はSi)および、カーボンなどの導電材を混合し、メカニカルミリング処理を一括して行った。電極内固体電解質材料合成と電極合材の複合化を同時に行う方法を考案したことで、室温作動の全固体リチウム硫黄電池用Li2S正極とSi負極合材を開発することに成功した。

 これによって、活物質粒子−固体電解質粒子間および固体電解質粒子間の接点を大きく改善でき、電極合材の製造工程も常温プレスのみで済むため、大幅に短縮できるという。


酸化物系固体電解質材料を用いた電極合材および電極形成概略図[クリックで拡大] 出所:産総研

 開発した正極と負極を組み合わせてフルセル試験を行い、充放電特性を測定した。この結果、25℃で面積容量は4.0mAh/cm2、エネルギー密度は283Wh/kg(正・負極重量基準)となった。これらの値は、電極に酸化物系固体電解質材料を用いた従来の全固体リチウムイオン電池と比べ、大幅に向上した。


正・負極を組み合わせたフルセル試験構成と、25℃での充放電特性 出所:産総研

酸化物系全固体電池のフルセルのエネルギー密度(正極+負極重量基準) 出所:産総研

 研究チームは今後、高変形性酸化物系固体電解質材料の充放電サイクル安定性やイオン伝導率の改善、活物質比率を現行の30%から50%に増加できる電極合材の複合化法の検討などに取り組む。これにより、エネルギー密度のさらなる向上を目指す。フルセル試験の隔離層についても、イオン伝導率の改善や薄膜化を実現することで、酸化物系固体電解質材料に置き換える予定である。

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