低ノイズ、広帯域、低電力の磁気センサーを開発:MI素子向け計測用ASICを設計
産業技術総合研究所(産総研)は、低ノイズで広帯域、低消費電力の磁気センサーを愛知製鋼と共同開発したと発表した。磁気インピーダンス素子(MI素子)向け計測用ASICを独自開発するなどして実現した。
従来磁気センサーと比べ、電力効率は1000倍、ノイズは100分の1に
産業技術総合研究所(産総研)デバイス技術研究部門先端集積回路研究グループの秋田一平主任研究員らは2022年2月、低ノイズで広帯域、低消費電力の「磁気センサー」を愛知製鋼と共同開発したと発表した。磁気インピーダンス素子(MI素子)向け計測用ASICを独自開発するなどして実現した。
高感度で広帯域の磁気センサーは、生体磁気計測や産業用計測といった分野で、その応用が期待されている。また、消費電力のさらなる低減や、小型軽量化に対する要求も高まっている。こうした中で、注目されているのがMI素子を用いた磁気センサーである。ところが、低ノイズの出力信号を得るために、これまでは信号処理回路で多くの電力を消費していたという。
研究グループはMI素子用として、低ノイズと低消費電力を実現した信号処理回路を新たに開発した。特に、出力信号を低ノイズ化し広帯域化するには、誘導電圧のサンプリング処理をナノ秒単位で制御する必要がある。ところがデバイス間の製造バラツキなどによって、こうした制御はこれまでは難しかったという。
そこで研究グループは、出力信号をモニタリングし、サンプリングタイミングを補正するためのデジタル自動補正技術を開発した。遅延同期回路を用い、高い時間分解能でサンプリングタイミングを調整することにより、MI素子感度が最大となるポイントを自動的に探索する。これらの技術により、サンプリング処理を適切に制御することが可能となった。
研究グループは、MI素子向け計測用ASICなどを用いた磁気センサーを試作し評価した。入力レンジは±125μテスラ(T)で、無入力時の消費電力は2.6mWである。信号帯域とノイズ特性を測定したところ、それぞれ33kHzと10pT/√Hzであった。
開発したデジタル自動補正技術の有効性も確認した。この結果、自動補正前に比べて、自動補正後の信号帯域とノイズ特性は大きく改善した。開発した磁気センサーのダイナミックレンジは93dBで、正規化エネルギーは1.6pJとなった。従来の低ノイズ磁気センサーに比べ、電力効率は1000倍、ノイズは100分の1である。
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