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産総研ら、LIBの充電能力劣化を非破壊で可視化結晶配向性を考慮した解析手法考案

産業技術総合研究所(産総研)は、日産アークや高エネルギー加速器研究機構(KEK)、総合科学研究機構(CROSS)と共同で、新たに開発した解析手法を用い、リチウムイオン二次電池(LIB)の電極劣化状態を非破壊で可視化し、「新品」と「劣化品」における充電能力の差を定量分析することに成功した。

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「新品」と「劣化品」のLIBにおける充電能力の差を定量分析

 産業技術総合研究所(産総研)は2022年2月、日産アークや高エネルギー加速器研究機構(KEK)、総合科学研究機構(CROSS)と共同で、新たに開発した解析手法を用い、リチウムイオン二次電池(LIB)の電極劣化状態を非破壊で可視化し、「新品」と「劣化品」における充電能力の差を定量分析することに成功したと発表した。

 リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンが正極材からグラファイトなど負極材中に移動することで充電を行う。充電能力が劣化する原因を解析するには、負極材中でリチウムイオンを保持する結晶の種類やその密度といった情報を取り出す必要がある。しかしこれまでは、結晶の配向性が強いなどの理由から、負極材中の結晶情報を広範かつ定量的に計測するのは極めて難しかったという。

 産総研と日産アークは、リチウムイオン二次電池の充電能力が劣化する原因を、非破壊で定量的に解析する技術の開発に取り組み、グラファイトの結晶配向性を考慮した解析手法を新たに考案した。そして、KEKや大強度陽子加速器施設(J-PARC)センター、CROSSと共同で、リチウムイオン二次電池内部の結晶構造情報を2次元的に得られる「ブラッグエッジイメージング」実験を行った。

 実験に用いた試料は、市販されているスマートフォン用の平板型リチウムイオン二次電池で、「新品」と、蓄電容量が新品に比べ約20%にまで減少した「劣化品」である。実験では、J-PARCセンター内に設置されている、電池などの計測に特化した中性子解析ビームライン(SPICA)を用い、リチウムイオン二次電池の充電および放電状態におけるブラッグエッジイメージング実験を非破壊で行った。

 グラファイトの情報を有する波長領域におけるブラッグエッジスペクトルの測定結果を見ると、放電状態では「新品」および「劣化品」のいずれも、負極のグラファイト結晶に起因するエッジ構造のみが観察された。

 これに対し充電状態では、「新品」においてリチウムイオンがグラファイト結晶に挿入されて生成した結晶(Li1C6やLi0.5C6)に起因するエッジ構造が見られた。一方、「劣化品」は、Li1C6よりもリチウム濃度が低いLi0.5C6に起因するエッジ構造が大きくなった。Li0.04C6などリチウム濃度が低い結晶に起因するエッジ構造もわずかながら検出されたという。


左はリチウムイオン二次電池内部と負極材の結晶構造変化の模式図、右は「新品」「劣化品」における充電/放電状態でのブラッグエッジスペクトルの変化[クリックで拡大] 出所:産総研

 これらの結果から、各結晶の密度を定量的に測定するためには、スペクトルを解析モデルにより近似する必要がある。研究グループは今回、グラファイトやLi1C6などの結晶配向性を取り入れた新たなモデルによる解析手法を開発。これを実験結果に適用することで、正確なエッジ高さと各結晶の密度を測定することに成功した。


新たに開発した解析手法と従来手法による放電状態での中性子透過率の比較 出所:産総研

 開発した手法を用いて、ブラッグエッジイメージングの解析も行った。測定に用いたリチウムイオン二次電池は、中性子線が透過する方向の厚みが約3.5mmである。実験では正極タブ付近にある約16×65mmの領域について観測した。平面方向の空間分解能は約1mmである。

 測定した結果、生成量が少ないLi0.04C6結晶なども含め、各結晶における密度の平面分布を決定することができたという。「新品」では、最もリチウム量の多いLi1C6結晶が支配的で、一様に分布していることが分かった。

 「劣化品」はLi1C6結晶の密度が低く、分布にもばらつきが見られた。特に、正極タブから離れているほど、密度は低下した。しかも、「劣化品」はLi0.5C6結晶の密度がほぼ全体的に高くなり、正極タブから離れたところに、密度の低い箇所が筋状に分布することも明らかとなった。筋状の分布は長さが3cmにもなり、ここにはLi0.04C6結晶やLi0.2C6結晶が偏在する傾向にあるという。この箇所では総リチウムイオン量が新品の半分以下であった。


左は測定に用いたリチウムイオン二次電池の模式図とX線CT断面図、右は「新品」と「劣化品」の充電状態における各結晶構造のリチウムイオン密度分布の比較[クリックで拡大] 出所:産総研

 今回の研究成果は、産業技術総合研究所(産総研)分析計測標準研究部門X線・陽電子計測研究グループの木野幸一主任研究員と大島永康研究グループ長、放射線イメージング計測研究グループの田中真人研究グループ長と藤原健主任研究員、黒田隆之助研究グループ付、マルチマテリアル研究部門軽量金属設計グループの渡津章主任研究員および、日産アーク解析プラットフォーム開発部の伊藤孝憲テクニカルマネジャー、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の神山崇名誉教授、米村雅雄元特別准教授、総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センターの石川喜久研究員らによるものである。

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