ペロブスカイト太陽電池の有機ホール輸送材料開発:添加剤使わず、高い変換効率を実現
産業技術総合研究所(産総研)は、ペロブスカイト太陽電池向けに、添加剤を使わず高い光電変換効率を実現できる、新たな有機ホール輸送材料を、日本精化と共同で開発した。
耐熱性試験で初期性能を1000時間維持
産業技術総合研究所(産総研)ゼロエミッション国際共同研究センター有機系太陽電池研究チームの村上拓郎研究チーム長と小野澤伸子主任研究員は2022年3月、ペロブスカイト太陽電池向けに、添加剤を使わず高い光電変換効率を実現できる、新たな有機ホール輸送材料を、日本精化と共同で開発したと発表した。
ペロブスカイト太陽電池に用いられる有機ホール輸送材料は、リチウムイオンなどを添加することでホール移動度を向上させ、光電変換効率を高めている。ところが、吸水性のあるリチウム塩などを添加すると、熱や光、湿気に対する耐久性が低下する原因になることがあった。
そこで産総研は、ホール輸送材料の骨格分子を効率的に合成する技術を蓄積してきた日本精化と共同で、2017年より新たなホール輸送材料の開発に取り組んできた。ペロブスカイト太陽電池はこれまで、ホール輸送材料として分子の先端に「メトキシ基」を持つ「Spiro-OMeTAD」などを用いてきた。
研究チームは今回、新たなホール輸送材料を合成した。具体的には、メトキシ基を「ジメチルアミノ基」に置き変えることで、分子内に電子を送り込む機能(電子供与性)を高めた。さらに、ホール輸送材料内部の電子が広く動けるよう、分子内から電子を引き出す機能(電子吸引性)が高い「シアノ基」を、分子の中心に近い位置へ導入した。
実験では、ホール輸送材料に添加剤を用いない条件で、新たに開発したホール輸送材料と従来材料をそれぞれ用い、ペロブスカイト太陽電池(MAPbI3)を試作した。これらの光電変換効率を測定したところ、従来材料の12.9%に対し、新規材料を用いると16.3%に向上した。
さらに、新規材料を高効率のペロブスカイト[Cs0.05(FA0.85MA0.15)0.95Pb(I0.89Br0.11)3]と組み合わせた結果、変換効率は18.7%に達した。しかも、新規のホール輸送材料は、膜厚を30〜50nm(従来品は100〜200nm)まで薄くすることが可能であり、材料の削減につながるとみている。
未封止の太陽電池に対して、85℃における耐熱試験も行った。この結果、電池の初期性能はほぼ1000時間維持されるなど、高い耐熱性があることも分かった。
研究チームは今後、ペロブスカイト組成の最適化や劣化抑制技術、封止技術の導入などによって、20年以上の寿命を有する高効率ペロブスカイト太陽電池の開発を進めていく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 低ノイズ、広帯域、低電力の磁気センサーを開発
産業技術総合研究所(産総研)は、低ノイズで広帯域、低消費電力の磁気センサーを愛知製鋼と共同開発したと発表した。磁気インピーダンス素子(MI素子)向け計測用ASICを独自開発するなどして実現した。 - 産総研ら、LIBの充電能力劣化を非破壊で可視化
産業技術総合研究所(産総研)は、日産アークや高エネルギー加速器研究機構(KEK)、総合科学研究機構(CROSS)と共同で、新たに開発した解析手法を用い、リチウムイオン二次電池(LIB)の電極劣化状態を非破壊で可視化し、「新品」と「劣化品」における充電能力の差を定量分析することに成功した。 - MEMS技術を用い電子部品の薄型・小型化を実現
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とアルファー精工、旭電化研究所および、シナプスは、MEMS技術を用い、薄型かつ小型で優れた伝送特性を備えた電子部品の開発に成功した。素材として金属と樹脂を用いるため、第6世代移動通信(6G)システム向けのコネクターやソケットなどに適用することができる。 - 産総研ら、SGCNTシートを用いた負極部材を開発
産業技術総合研究所(産総研)と日本ゼオンは、共同開発したリチウム金属と単層カーボンナノチューブシートを組み合わせた負極部材を用い、リチウムデンドライト(樹枝状結晶)の成長を抑制することに成功した。リチウムイオン二次電池で、高い電流密度と長寿命化が可能となる。 - チャネル長が2.8nmのCNTトランジスタを開発
物質・材料研究機構(NIMS)を中心とした国際共同研究チームは、チャネル長がわずか2.8nmのカーボンナノチューブ(CNT)トランジスタを開発し、室温で量子輸送が可能であることを実証した。 - ハイブリッド型トランジスタ、GaNとSiCを一体化
産業技術総合研究所(産総研)は、GaNを用いたトランジスタとSiCを用いたPNダイオードをモノリシックに集積したハイブリッド型トランジスタを作製し、動作実証に成功したと発表した。GaNとSiCの特長である、低オン抵抗と非破壊降伏の両立を可能とした。