東北大学、可視光透過率約80%の太陽電池を開発:透明性を保ち、最大420pWを発電
東北大学は、可視光透過率が約80%という、ほぼ透明な太陽電池を開発した。試作した1平方cmの太陽電池は、高い透明性を維持したまま、最大420pWの発電ができることを確認した。
TMD接合部のショットキー障壁高さを自在に制御
東北大学大学院工学研究科電子工学専攻の加藤俊顕准教授、何杏特任助教(研究当時在籍)、金子俊郎教授らによる研究グループは2022年7月、可視光透過率が約80%という、ほぼ透明な太陽電池を開発したと発表した。試作した1cm2の太陽電池は、高い透明性を維持したまま、最大420pWの発電ができることを確認した。
研究グループは、フレキシブルな半導体原子シートである「遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)」を用いた透明太陽電池の、新たな発電機構である「ショットキー発電」を2017年に提唱し、最大0.7%という発電効率を達成していた。しかし、電極にNi(ニッケル)やPd(パラジウム)などのバルク金属を用いたため、高い透明性は実現できなかったという。
今回は、ショットキー型原子層太陽電池をベースに、ITO電極を用いることで高い透明性を有する太陽電池の開発を目指した。TMDの左右にITO電極を設けたデバイス構造とすれば、原子1層分の厚みを持つTMDがわずかに太陽光を吸収し、励起子と呼ばれる電子−正孔対が生成される。
励起子がITO/TMD界面に存在する強電場領域まで拡散すると、電場で電荷分離され電子と正孔が独立して動けるようになるという。この時、デバイス片側のITO/TMD界面では、できるだけ高いショットキー障壁を、その対向側では低い障壁をそれぞれ形成し、「電荷分離領域」および、「キャリア捕集領域」として用いる必要があるという。
ここで必要になるのが、ITO/TMD間のショットキー障壁を自在に制御する技術である。今回は、ITO電極表面に数nm以下のさまざまな金属薄膜を堆積させ、ITO電極の仕事関数を調整することで、ITO/TMD間のショットキー障壁高を制御することにした。この結果、挿入する金属薄膜の種類と膜厚を最適化すれば、ITOの透明度を維持しながら、TMD接合部のショットキー障壁高さを自在に制御できることが分かった。
実験では、電荷分離領域とキャリア捕集領域にそれぞれ適切な金属薄膜/ITO構造を選択したデバイスを作製し、太陽光発電の性能を比較した。単純なITO電極だけを用いた時に比べ、最適化した金属薄膜/ITO電極構造だと、発電効率は1000倍以上も向上することが分かった。
透明太陽電池の実用化に向けて、大面積化に関する研究も行った。ところが、基本ユニット構造の面積を単に拡大するだけでは開放電圧が低下し、総発電量(PT)を増やすことはできなかったという。
そこで研究グループは、電極幅と長さのアスペクト比を一定値以下にすれば、デバイス面積の増加に伴って、PTが増加することを明らかにした。1cm2の石英基板上にTMD太陽電池を集積したところ、可視光透過率約80%を維持したままで、420pWの太陽光発電が得られたという。
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