東北大学ら、高性能スーパーキャパシターを開発:高エネルギー密度と出力密度を両立
カリフォルニア大学と東北大学の国際共同研究チームは、市販の3Dプリンタを用いて、イオンが高速で移動できる多重細孔炭素電極材料を作製し、高いエネルギー密度と出力密度を両立させた「スーパーキャパシター」の開発に成功した。
イオンが高速移動できる多重細孔炭素電極材料を3Dプリンタで作製
カリフォルニア大学と東北大学の国際共同研究チームは2022年4月、市販の3Dプリンタを用いて、イオンが高速で移動できる多重細孔炭素電極材料を作製し、高いエネルギー密度と出力密度を両立させた「スーパーキャパシター」の開発に成功したと発表した。
エネルギー貯蔵デバイスには、大きく分けて多くのエネルギーをためることができる「バッテリー」や、瞬時に電気を出力できる「キャパシター」がある。スーパーキャパシターは、バッテリーのように高いエネルギー密度を有しながら、キャパシターのように高い出力を得ることが可能なデバイスである。
ただ、デバイスの電極シートを厚くするとエネルギー密度は高くなるが、出力密度が低下するなど、エネルギー密度と出力密度にはトレードオフの関係がある。このため現行デバイスではこれらを両立させることが難しかったという。
研究チームは今回、スーパーキャパシター電極の厚膜化に取り組んだ。市販品の安価な光造形型3Dプリンタを用いて、イオンが高速で移動できる経路を人工的に設けた多重細孔炭素電極を作製した。これは直径150μmの規則的マクロ孔と、直径2〜3nmのナノ孔の多重細孔構造を持つ炭素材料である。
この電極は、従来の蓄電デバイスに比べ厚みが10倍以上でありながら、イオンが高速に移動できることを確認した。また、マンガン酸化物の層で炭素表面を覆った材料を作製することに成功した。
多重細孔マンガン酸化物電極と多重細孔炭素電極を組み合わせることで、「電極面積当たり世界最大級のエネルギー密度と出力密度を有するスーパーキャパシターの作製に成功した」という。集電体やセパレーターの使用量も削減でき、デバイスの小型化やコスト削減も可能になるとみている。
今回作製した電極材料はミリメートルサイズだが、スケールがより大きい3Dプリントプロセスを開発できれば、大規模エネルギー貯蔵デバイスに応用することも可能になるという。
今回の成果は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校博士課程の勝山湧斗氏(研究当時は東北大学多元物質科学研究所兼務)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のRichard B.Kanerディスティングイッシュトプロフェッサー、東北大学多元物質科学研究所の小林弘明講師、岩瀬和至助教、本間格教授および、東北大学材料科学高等研究所の工藤朗助教ら国際共同研究チームによるものである。
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