東北大ら、硫黄の化学状態を高い分解能で可視化:リチウム硫黄電池の性能向上へ
東北大学や住友ゴム工業などによる共同研究グループは、含硫黄高分子粒子内部の不均一な硫黄化学状態を非破壊で可視化することに成功した。開発した計測技術を動作中のリチウム硫黄電池に適用すれば、正極材に用いられている硫黄の反応や劣化メカニズムを解明することができ、電池の性能向上につながるとみている。
テンダーX線を用いたタイコグラフィ計測技術を確立
東北大学や住友ゴム工業、理化学研究所、高輝度光科学研究センターによる共同研究グループは2022年9月、含硫黄高分子粒子内部の不均一な硫黄化学状態を非破壊で可視化することに成功したと発表した。開発した計測技術を動作中のリチウム硫黄電池に適用すれば、正極材に用いられている硫黄の反応や劣化メカニズムを解明することができ、電池の性能向上につながるとみている。
共同研究グループは、テンダーX線を用いた顕微法の1つであり、物質の微細構造や化学状態を高い分解能で観察できる「X線タイコグラフィ計測技術」について、大型放射光施設「SPring-8」の分光計測用ビームライン「L27SU」を活用して開発した。
計測システムでは、Si(111)結晶分光器で単色化したX線を、直径約10μmレベルで精密加工したピンホールによって空間的に切り出し、試料に入射するX線のコヒーレンスを確保した。また、テンダーX線用に開発した2次元検出器「SOPHIAS-L」を用い、回折強度パターンを取得した。計測システムを用い、テスト用試料を2.5keVで測定した結果、位相像(試料電子密度の投影分布)では、試料に設けた50nm幅の構造を観察することができたという。
さらに実験では、リチウム硫黄電池の正極材料として開発した、直径約5μmの硫黄変性ポリブチルメタクリレート粒子を、硫黄のK吸収端付近である2.46〜2.50keVの30点で計測した。この結果、走査型電子顕微鏡像と同様の吸収像が得られたことなどから、高い計測精度であることを実証した。
東北大学青葉山新キャンパスでは現在、3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」の整備を進めており、2024年にも運用を始める予定。この施設は、SPring-8に比べ5〜40倍という高強度なテンダーX線を供給することが可能である。このため、分解能のさらなる向上や、測定時間の短縮が期待できるとみている。
今回の研究成果は、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの高橋幸生教授(理化学研究所放射光科学研究センターチームリーダー)と石黒志助教(理化学研究所放射光科学研究センター客員研究員)、東北大学大学院工学研究科の阿部真樹大学院生(理化学研究所放射光科学研究センター研修生)、住友ゴム工業の金子房恵博士(東北大学多元物質科学研究所助教)と岸本浩通博士、理化学研究所放射光科学研究センターの初井宇記チームリーダー、高輝度光科学研究センターの為則雄祐室長らによるものである。
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