表面合成により、ケイ素を含むCOF膜の合成に成功:電池材料などへの応用に期待
物質・材料研究機構(NIMS)と分子科学研究所を中心とした国際共同研究チームは、金属表面上での化学反応を利用し、ケイ素(Si)を含む共有結合性有機構造体(COF)膜の合成に成功した。開発した合成手法を応用すれば、ゲルマニウム(Ge)やスズ(Sn)を含む炭素(C)薄膜の合成も可能になるという。
電池材料や触媒、水浄化膜などへの応用に期待
物質・材料研究機構(NIMS)と分子科学研究所を中心とした国際共同研究チームは2022年11月、金属表面上での化学反応を利用し、ケイ素(Si)を含む共有結合性有機構造体(COF)膜の合成に成功したと発表した。開発した合成手法を応用すれば、ゲルマニウム(Ge)やスズ(Sn)を含む炭素(C)薄膜の合成も可能になるという。
COFは、2次元や3次元のネットワーク構造を有する人工構造体。特に2次元COFは電池材料や触媒、水浄化膜などに向けた新材料として注目されているという。中でも、C元素だけで構成されているベンゼン環の一部を、Si元素に置き換えた2次元COFに対しては強い要求があるものの、これまで実現はされていなかったという。
研究グループは今回、Si原子を蒸着した金属表面上で、臭素(Br)原子を導入した分子を表面反応させる合成手法を新たに開発した。この手法を用い、ベンゼン環のCを2つSiで置換させた「1,4-ジシラベンゼン環」を結合部位としたCOF膜や、短冊状の構造である「グラフェンナノリボン」の表面合成に成功した。
研究グループは、合成に成功したSiを含むCOF膜について、走査型プローブ顕微鏡を用い、その構造を同定した。その上で、走査型トンネル分光法により電気特性を解明した。また、加熱すると6員環である「1,4-ジシラベンゼン環」が、5員環の「シロール環」に変形することが分かった。
高分解能走査型プローブ顕微鏡で得られた実験結果については、フィンランドAalto大学のAdam S. Foster教授らによるグループが、密度汎関数理論(DFT)計算により総合的な検証を行った。SiとCの結合長や芳香族性、基板の影響など物理化学現象についても解明したという。
さらに、光電子分光法を用い反応過程も解明した。具体的には、分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR)のシンクロトロン放射光を用いた高分解能X線光電子分光を用い、各原子の結合エネルギーを高精度に解析した。
今回の研究成果は、NIMS先端材料解析研究拠点ナノプローブグループの川井茂樹グループリーダーとKewei Sun氏(JSPS外国人特別研究員)、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の松本道生独立研究者、分子科学研究所の解良聡教授、フィンランドAalto大学のAdam S. Foster教授からなる国際共同研究チームによるものである。
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