円安はもはや国内電機にとって追い風ではない、電機大手8社22年度上期決算総括:大山聡の業界スコープ(59)(4/4 ページ)
2022年11月11日に東芝の2022年3月期(2022年度)上半期決算が発表され、大手電機8社の決算が出そろった。急速に円安が進んだ中で、増益の追い風を受けた企業がほとんどないという実態に、個人的にはやや驚きと失望を感じている。ここでは各社の注目すべき点を紹介しながら、今後の見通しについて述べてみたい。
円安が減益要因になってしまったシャープ
シャープの2022年度上期業績は、売上高1兆2579億円(前年比397億円増)、営業利益24億円(同366億円減)、当期利益103億円(同322億円減)であった。
スマートライフ部門は、国内外の白物家電やエネルギーソリューション事業が堅調に推移し増収だったが、急速な円安の進展により減益になった。8Kエコシステム部門は、MFP事業の伸長、国内や米国でのテレビ事業の好調などで増収だったが、欧州でのテレビ事業の抜本的な事業構造の見直しで費用が発生し、減益になった。ICT部門は、国内のPC事業の伸長などで増収だったが、急速な円安の進展により減益となった。ディスプレイデバイス部門は、市況の悪化に加えて中国ロックダウンの影響もあり、減収減益を余儀なくされた。特に7〜9月期の赤字拡大が大きかった。エレクトロニックデバイス部門は、堅調な需要とコロナで低迷した前年からの反動があり、増収増益になった。
2022年度通期業績予想は、売上高2兆7000億円(同2045億円増)、営業利益250億円(同597億円減、前回予想比400億円減)、当期利益50億円(同689億円減、同450億円減)としている。ディスプレイ市況の低迷が大きく影響している点はやむを得ないが、グローバル展開をしている製造業でありながら円安が減益の要因となっている点はネガティブに評価すべきだろう。
全分野での収益が安定しているソニー
ソニーの2022年度上期業績は、売上高4兆6262億円(前年比5581億円増)、営業利益5985億円(同616億円増)、当期利益4275億円(同2383億円減、ただし前期は繰延税金資産に対する評価性引当金の一部、2149億円の取り崩しを含む)であった。
ゲーム&ネットワークサービス分野は、為替の影響などで増収だったが、米ドル建てコスト比率も高く、開発費の増加もあって減益になった。音楽分野は、為替の影響にストリーミングサービス収入の増加もあり、増収増益になった。映画分野は、劇場興行収入もテレビ向けライセンス収入も増加しており、増収増益であった。エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野は、為替の影響に加えてデジカメの好調などで増収だったが、スマホ販売の下振れが大きく、全体では減益となった。イメージング&センシング・ソリューション分野は、モバイル向けイメージセンサーが堅調に推移しており、増収増益であった。金融分野は、ソニー生命の大幅減で減収だったが、その子会社において前期発生した不正送金に関する資金回収があり、これが増益要因になった。
2022年度通期業績予想は、売上高11兆6000億円(前年比1兆6785億円増、前回予想比1000億円増)、営業利益1兆1600億円(同423億円減、同500億円増)、当期利益8400億円(同422億円減、同400億円増)としている。今回の上方修正は音楽と映画の2分野による貢献だが、どの分野も収益性が非常に安定しており、全体的に安心感の持てる内容と言えよう。
総括
収益の安定性ではソニー、日立製作所がポジティブに評価できる内容で、逆に収益改善に物足りなさを感じる三菱電機、円安で減益になってしまうシャープがネガティブな内容と言えよう。
しかし最も気になるのは、東芝の非公開化を前提とした再編計画だろう。国内投資ファンドを中心に十数社が出資を検討しており、東芝を2兆2000億円で買い取って非公開化するかどうかが議論されている。今回の決算発表ではこの件に関してコメントは出されていないが、非常に結論の出にくい状況にあるようだ。当面は動向を見守りたいと思う。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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