Xnm世代プロセスに適合するiPMA Hexa-MTJを開発:CoFeBとMgOの界面数を6重へ
東北大学は、STT-MRAM向けの「6重界面磁気トンネル接合素子(iPMA Hexa-MTJ)」を開発した。iPMA Hexa-MTJは、Xnm世代のマイコン混載不揮発メモリに適用できる熱耐性や書き換え耐性を実現している。
260℃でのデータ保持耐性や1000万回以上の書き換え耐性を実現
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターの遠藤哲郎センター長らによる研究グループは2022年12月、STT-MRAM(スピントルク移行型磁気ランダムアクセスメモリ)向けの「6重界面磁気トンネル接合素子(iPMA Hexa-MTJ)」を開発したと発表した。iPMA Hexa-MTJは、Xnm世代のマイコン混載不揮発メモリに適用できる熱耐性や書き換え耐性を実現している。
東北大学は、現総長の大野英男氏らが界面垂直磁気異方性(i-PMA)型MTJを発明。2010年には接合直径が40nmのMTJを動作させることに成功していた。このMTJはCoFeB(磁石層)とMgO(障壁層)の界面に生じる「i-PMA」とよばれる物理現象を、データ保持に利用する。
その後、データ保持特性を改善するためi-PMAを2つ備えた「Double-MTJ」の開発や、Double-MTJを活用したSTT-MRAMの試作を行い、動作実証を重ねてきた。ただ、製造プロセスの微細化がさらに進むと、「十分なデータ保持特性を得るのが難しい」などの課題もあったという。
そこで遠藤氏らの研究グループは、CoFeBとMgOを6重界面としたiPMA typeのHexa-MTJを開発した。ところが、Hexa-MTJでは絶縁膜のMgO膜が4層となり、素子の抵抗が高くなることや、熱揺らぎで磁化の向きを保持するのが難しいなど、いくつかの問題点も出ていた。
これらを解決するため今回は、「抵抗が小さいMgO膜の開発」や「熱安定性が高く、温度依存性が小さい記録層の開発」「ダメージが少ないパターニングプロセスの開発」および、「熱安定性が高い参照層の開発」などに取り組んだ。
これらの技術を用いて開発した25nmのMTJは、「20年間のデータ保持特性」や「260℃のソルダーリフロー耐性」「1000万回以上の書き換え耐性」「半導体プロセスに適合した400℃の耐熱性」について、同時に達成していることを確認した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東北大、硫化スズを用いて高効率太陽電池を開発へ
東北大学多元物質科学研究所の鈴木一誓助教らによる研究グループは2022年12月、硫化スズ(SnS)を用いて、高効率の太陽電池が開発できることを実証した。今回の成果はSnS太陽電池から0.7〜0.8Vの開放電圧が得られる可能性を示すものだという。 - クラッド鋼板の曲げ振動で風邪コロナウイルス検知
東北大学と山梨大学は東北特殊鋼と共同で、鉄コバルト/ニッケルクラッド鋼板の表面にタンパク質CD13を固相化させる技術を開発した。このクラッド鋼板を用い、風邪コロナウイルスの1つである「HCoV-229E」を検知することに成功した。 - 東北大、スピン熱伝導物質のナノシート化に成功
東北大学の研究グループは、アルカリ溶液を用いる手法で、スピン熱伝導物質をナノシート化することに成功した。熱の流量を制御できる「熱伝導可変材料」の開発や、熱制御デバイスへの応用が期待される。 - 東北大とTDK、再生可能エネルギー研究で連携強化
東北大学は、TDKとの連携強化に向けて、「TDK×東北大学 再生可能エネルギー変換デバイス・材料開発共創研究所」(以下、共創研究所)を2022年10月1日に設置した。「2050年カーボンニュートラル社会実現」に貢献していくのが狙い。 - 東北大学、全く新しいスピン流生成現象を発見
東北大学は、酸化ルテニウムを用い、反強磁性磁気秩序によって生成される、全く新しい「スピン流生成現象」を発見した。この現象を応用して、外部磁場を必要としない垂直磁化の反転を実証した。 - 神戸大ら、FePd/Gr界面状態を第一原理計算で予測
神戸大学と東北大学の研究グループは、鉄パラジウム(FePd)にグラフェン(Gr)を積層した異種結晶界面(FePd/Gr)の状態を第一原理計算で予測し、その電子と磁気の状態を解析した。