東海大学、大気中で長期安定のn型CNT膜を開発:熱伝導率は従来の約10分の1に
東海大学は、熱伝導率が低く、大気中で2年以上も安定してn型半導体の特性を示す「カーボンナノチューブ(CNT)複合膜」の開発に成功した。試作したオールCNTのpn接合型熱電発電デバイスは、160日間も性能劣化がなく発電できることを確認した。
陽性界面活性剤でCNT表面を覆い、酸素分子の吸着防ぐ
東海大学工学部応用化学科の高尻雅之教授を中心とした研究グループは2023年1月、熱伝導率が低く、大気中で2年以上も安定してn型半導体の特性を示す「カーボンナノチューブ(CNT)複合膜」の開発に成功したと発表した。試作したオールCNTのpn接合型熱電発電デバイスは、160日間も性能劣化がなく発電できることを確認した。
一般的な熱電発電デバイスは、p型とn型の半導体特性を示す熱電材料を用いて、電圧・電力を効率よく取り出すことができる。CNTを用いて熱電発電デバイスを作製する場合、CNT表面に酸素分子が吸着するなどして、長期間安定した特性を示すn型CNTを作製することが極めて難しかったという。このため従来は、p型CNT材料のみ、あるいはp型CNTとn型無機半導体を組み合わせた構造となっていた。
研究グループは今回、陽性界面活性剤のジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(DODMAC)を用いた。DODMACのカチオン分子がCNTに吸着し、CNT表面を覆うことでCNT表面に酸素分子が吸着するのを防ぐためだ。また、DODMACによるドーピング効果によって、DODMACからCNTへ電荷が移動し、CNTがn型になるという。
具体的には、ドロップキャスト法を用いて日本ゼオン製の単層CNT粉末「SG-CNT」とDODMACの分散溶液を、ガラス基板上に堆積させ、適切な温度で熱処理を行った。こうして得られた単層CNT膜は712日間、約−50μV/Kのn型のゼーベック係数が得られたという。
CNT熱電発電デバイスを作製するに当たっては、CNTとDODMACを水に分散させた「n型膜作製用の溶液」と、CNTをエタノールに分散させた「p型膜作製用の溶液」を用意した。これらの分散溶液をポリイミド基板上に堆積し、大気中で乾燥させ熱処理を行った。そして、熱処理後のCNT膜をn型とp型が交互になるよう配線した。このデバイスをn型とp型の接合部がヒーターと大気中に接触するよう設置し、温度差をつけた。
n型CNT膜の面内方向熱伝導率を測定した結果、0.62W/(m・K)であった。この値は極めて小さく、従来品に比べ約10分の1だという。さらに、CNT熱電発電デバイスを作製してから14日目と160日目に、出力電圧と最大電圧を測定した。この結果、性能劣化はないことが分かった。最も高い性能を示したのは温度差が60℃の時で、出力電圧24mV、最大電力0.4Wが得られた。
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