京都大、室温で高温超伝導モーターの運転に成功:巻き線をハイブリッド構造に
京都大学は、高温超伝導誘導同期モーター(HTS-ISM)の室温運転に成功した。同モーターの巻き線を「高温超伝導体」と「常伝導体」のハイブリッド構造としたことで、仮に超伝導状態を維持できなくなっても、焼損などのリスクを回避し連続運転が可能となる。
イムラ・ジャパンが50kW級、三菱重工業が6kW級を試作し検証
京都大学大学院工学研究科電気工学専攻の中村武恒特定教授らによる研究グループは2023年3月、高温超伝導誘導同期モーター(HTS-ISM)の室温運転に成功したと発表した。同モーターの巻き線を「高温超伝導体」と「常伝導体」のハイブリッド構造としたことで、仮に超伝導状態を維持できなくなっても、焼損などのリスクを回避し連続運転が可能となる。
中村氏らの研究グループはこれまで、かご形誘導モーターと同様の構造をしたHTS-ISMの基礎回転理論や設計・制御理論を確立してきた。他の超伝導モーターよりも構造が単純で、コストも低減できるためだという。さらに、イムラ・ジャパンや三菱重工業との共同研究などを通じ、実用化に向けた課題解決に取り組んできた。その一つは、冷却装置が故障し極めて低い温度環境を維持できなくなった場合でも、リスクを回避できる技術である。
そこで今回、HTS-ISMの巻き線に、高温超伝導体/常伝導体を並列化した「ハイブリッドかご形巻き線」と呼ばれる構造を考案した。この巻き線に流れる電流は、高温超伝導体を流れる電流(IS)と、常伝導体を流れる電流(IN)の和となる。これらの電流は各導体における電気抵抗の逆数に比例するという。
これによって、高温超伝導体が超伝導状態になれば電気抵抗はゼロとなり、ある限界値までは損失の無いISのみが流れるという。一方、ハイブリッドかご形巻線の温度が上昇し、超伝導状態を維持できなくなると、その抵抗値は常伝導体の値を上回り、ほとんどの電流が常伝導体を流れることになる。この結果、室温で運転を続けても高温超伝導体が焼損するなどのリスクを回避できるという。
今回の研究成果を基に、JST-ALCAプロジェクトとしてHTS-ISMを試作し検証した。1台はイムラ・ジャパンと共同開発した50kW級HTS-ISMである。実験により、室温で5.5kWの出力運転(時間は61.5〜67.5秒)に成功した。入力電流は15.6Aで、ハイブリッド巻き線には460A程度の電流が流れていると予測されるが、焼損などのトラブルは発生しなかったという。もう1台は三菱重工業と開発した6kW級HTS-ISMである。ここでも、室温で出力1.5kW強(時間は399〜426秒)の連続運転に成功したという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 半導体ポリマーを結晶化、OPVの変換効率を約2倍に
広島大学と京都大学および、高輝度光科学研究センターらによる共同研究チームは、半導体ポリマーの結晶化により、塗布型有機薄膜太陽電池(OPV)の変換効率を、従来に比べ約2倍に高めた。有機半導体の結晶化を促進させるメカニズムも解明した。 - Wi-SUN FAN対応無線機1000台で自律通信試験に成功
京都大学と日新システムズは、国際無線通信規格「Wi-SUN FAN」対応の無線機1000台を用いた自律通信試験に成功した。通信制御パラメーターを最適化すれば、数千万台規模のシステムを構成することも可能だという。 - 双極子の荷電π電子系を積層した集合体を形成
立命館大学は、京都大学や慶應義塾大学、近畿大学、愛媛大学、JSRと共同で、双極子を有するπ電子系カチオンを同種電荷種間で積層し、集合化形態に起因する物性の変調や、半導体特性の発現が可能であることを解明した。 - ペロブスカイト薄膜の相乗的表面修飾法を開発
京都大学や理化学研究所、英国Oxford大学の共同研究グループは、スズを含むペロブスカイト太陽電池で、最大22.7%の光電変換効率と高い耐久性を実現する技術を開発した。その技術とは、スズ−鉛混合系ペロブスカイト薄膜を効果的に表面修飾する手法である。 - 高効率で高い指向性のナノアンテナ蛍光体を開発
京都大学工学部/大学院 工学研究科は2023年1月17日、助教の村井俊介氏らの研究グループが、高効率で指向性ある蛍光を放つ「ナノアンテナ蛍光体」の作製に成功したと発表した。 - リチウムイオン電池における溶媒和構造を可視化
京都大学とパナソニックホールディングスは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、リチウムイオン電池における溶媒和構造を可視化することに成功した。